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空想科学ゼミ SEMINAR

疑問を抱き、材料を集め、自ら考える

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研究報告
『因幡の白兎』 ウサギがワニの背中を渡るのに何時間かかる?
(德村 直己・大手前丸亀中学校1年)
疑問
『因幡の白兎』では、ウサギは隠岐島から、現在の白兎海岸に、ワニの上を渡っていったとあるが、一体何時間かかるのだろうか。

昔話紹介

因幡の白兎が隠岐島(おきのしま)から因幡国(いなばのくに)までワニを使って渡ったが、最後の一匹のところで、「お前たちは騙されたんだ」というと、ワニに毛皮を全部剥ぎ取られ泣いていたところを大国主神(おおくにぬしのかみ)に助けられるというお話。 

材料と検証

まず、隠岐島から、白兎(しろと)海岸(因幡の白うさぎがついたとされる海岸)までの直線距離を調べると約100kmである事が分かった。

次にサメについて考える。絵本では、サメの見た目をした動物をワニと言っている。しかし、明治時代以前の書物には、爬虫類のワニだという書物が多々ある。ここでは、ワニと書かれている生物を爬虫類のワニだとする。ワニの種類は、海水でも生息でき、日本にもたまに漂流することがあるイリエワニだとする。イリエワニの体長は雄で3.5~6m、雌で2.5~3m 程度である。(動物図鑑さんより) 雄ワニが隙間なく並んだとして、雄ワニの体長を5mとすると、雄ワニが20万匹も必要であるという計算になる。ワニは、基本的に雄、雌、子供合わせて、100匹以上もの群れを作る。(ワニの生態さんより)群れの半分である50匹を大人の雄ワニとすると、因幡の白兎は4000もの群れを使って因幡国に行ったのだ。

次はウサギの種類について考える。日本には、固有種のニホンノウサギ(ノウサギ)というものがいる。さらに、ニホンノウサギには4つの亜種があり、その中にオキノウサギというものがいる。因幡の白兎は隠岐島に住んでいたので、ウサギはオキノウサギとする。

そして、ウサギが隠岐島まで行くのにかけた時間を考える。オキノウサギ(ニホンノウサギ)は時速約72㎞(usagitokurasuさんより)で走る。すると因幡国に1時間24分でつくが、「うさぎ専門店mon Lapin」さんのサイトでは、ウサギを外に30分間出してみると、30分動きっぱなしということはなく、少し動いて長く休むパターンが多い事がわかった。さらにウサギは薄明薄暮性(はくめいはくぼせい)なので、明け方と夕方しか活発に動かない。昼間はほとんど寝ている。(うさぎとの暮らし大百科さんより)

 絵本で描かれた出発の時の背景は朝方に見えたので、白兎は早朝5時に出発したとする。さらにウサギは朝(5時~7時)と夕方(17時~19時)の間は1時間あたり20分間、夜(19時~5時)は1時間あたり10分間それぞれ時速約72㎞で走ることができ、昼間は動かないと仮定する。また、ウサギは休憩をしている間寝ているものと考える。するとウサギが朝5時から7時までに動いた距離は48㎞。昼間は寝ているので動かず、夕方は朝と同じく48㎞走ったことになり、朝5時から夕方19時までの14時間でウサギは96㎞走っていることになる。100㎞までの残り4㎞を時速72㎞で走るとなると約3分30秒で、夜に走ることができる限界の10分以内にめでたく走り終える。つまり早朝5時に隠岐島を出た因幡の白兎が因幡国に着いたのは、なんと出発から14時間3分30秒後の午後7時3分30秒となる。

さらにお話の始めでは、ウサギが、どっちが仲間の数が多いかで勝負しようといっている。ワニが隠岐島から、白兎海岸まで一直線に並ぶ時間を考える。ワニは、時速29km(水上)で泳ぐ(HUFFPOSTさんより)。しかし、ワニも一般的には20~30m泳いだら疲れてしまう。なので、早いスピードで長く泳ぐことはできない(HUFFPOSTさんより)。これを踏まえて、ワニは、獲物を狙っていたわけでもないので時速5㎞で泳いでいたと考える。ワニの群れが隠岐島の近海にいたとすると、ワニがすべて並び終わるまでの時間は、なんと20時間にもなる。

さらに、因幡の白兎の皮をワニが剥ぎ取るというところがあり、それを全員でいっせいに襲いかかるとすると、全員が集合するのにも20時間かかる。ならば、ウサギはその間に逃げることができるだろう。なぜなら、ウサギの時速は72㎞、ワニの時速は通常、陸上で18㎞(ワニの生態さんより)なので何匹かがウサギを捕まえに来ようとしても、普通に走れば逃げきれる。たとえウサギがここまで来るのに疲れて20時間寝てしまったり、白兎海岸の近くで、20時間休憩したりしていて、ワニが全員で襲いかかってきても、ワニの陸上での最大時速は時速50㎞(雑学カンパニーさんより)なので、ウサギが本気で逃げれば逃げ切ることができるだろう。さらに、ワニは必要以上に獲物を追いかけないので、ウサギが皮を剥がれるなんてことは、ウサギがよっぽどゆっくり走らないとありえないので、皮を剥がれることはなさそうだ。

結論と、それにより物語はどう変わる?

因幡の白兎は因幡国に行くのに要した時間は、ワニが並ぶのにかかった20時間とウサギが渡るのに要した14時間3分30秒の合計約34時間3分30秒である。そしてウサギがワニから逃げ切って、落ち着いて因幡国で生活できるようになるまでに要する時間は、約34時間30分~50時間30分である。ただ、ウサギがワニの上を走った時間(休憩の時間を除く)は、合計で1時間23分30秒だけになる。ウサギはなんと33時間40分~50時間以上も寝ていたり、休憩していたりしていることになるのだ。

因幡の白兎は、長い時間をかけて因幡国についた。ワニからも逃げ切ることもできた。そして因幡国で、のびのび生きることができたとさ。おしまい。と、なったのだが、よく考えると、ウサギが皮を剥がされないと、大国主神の弟たちが海風に当たると毛が伸びると嘘をつくことや、その後に来た大国主神が白兎に正しい治療法を教えて……というお話がなくなって、因幡の白兎の伝説が古事記に乗ることなく、現代にお話が伝わらないという結果になってしまう。

しかし、お話が現代に伝わっていることは、ウサギはワニたちに捕まったということになる。となると、ウサギは寝過ぎで体をうまく動かすことができずに、ワニにつかまってしまったのだろう。すると、この絵本を通して因幡の白兎が教える現代の子どもたちへの教訓は、嘘をついたり、人を騙したりしてはいけないというものではなく、寝過ぎは良くないという教訓になってしまった。

柳田理科雄のコメント

ワニとウサギの種の特定、体の大きさ、生態、運動能力など、実に細かく調べ、丁寧に分析していますね。「ウサギが渡る時間」について考えた人は、これまでにもいると思いますが、「ワニが並ぶ時間」や「ウサギの皮を剥ぐためにワニが集まる時間」まで考えた人は、なかなかいないでしょう。妥協しない姿勢が、とてもいいと思います。

その結果、「ウサギが皮を剥がれることはない」という第一の結論が得られましたが、「それでは『因幡の白兎』の話が現在に伝わるはずはない」という史実との矛盾に気づき、「ウサギは寝過ぎ」という最終結論が得られました。科学の勝利です!

1つだけ計算ミスがあります。「ワニの数は20万匹」とありますが、100㎞=10万mなので、「2万匹」ではないでしょうか。これによって、ワニの群れの数も「400」となります。こうしたミスは、僕もよくやります。お互いに気をつけましょう。

「白兎海岸」は、もしかしたら「はくとかいがん」かもしれません。調べてみてください。

計算ミスはありましたが、それでも見事な研究であったことは揺るぎません。これからも、その力強い思考力で、他の人が歩いたことのない道を突き進んでください。