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空想科学ゼミ SEMINAR

疑問を抱き、材料を集め、自ら考える

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研究報告
『一寸法師』 なぜ鬼の胃酸で体が溶けなかったのか?
(ユイナ・滋賀県立河瀬高校2年)
疑問
一寸で生まれた一寸法師が、鬼の胃酸で溶けずに出てこられたのはなぜか?

昔話紹介

一寸で生まれた一寸法師はある日、おわんに乗って都に行き、大臣のお姫様と寺参りに行く。その帰りに鬼と出会い、鬼に食べられる。鬼のお腹の中で、針で鬼の体をつつき、鬼は痛くて吐き出す。鬼が置いていった小槌を振ると大きくなる。

材料と検証

Q1.一寸の子は生まれるのか。

一寸法師は軟骨無形成症だった。身長1寸(3㎝)なら、体重250gで生まれたことになる。おばあさんは41歳で産んでいる。40~44歳で1500g未満の子供を出産する確率は16.7%。現在の500g未満の生存率は60.2%。昔でも奇跡的に生きることは可能。

Q2.なぜ鬼の胃酸で溶けなかったのか。

人間の胃酸はpH1~2の強酸性。人が落ちたら溶ける。では、なぜ溶けなかった? 鬼の正体は、実は牛だったから(牛の胃酸のpHは6.4)。

結論と、それにより物語はどう変わる?

軟骨無形成症で生まれた一寸法師は、年齢を重ねても身長は伸びなかった。鬼に食べられた一寸法師は鬼の腹をつつき、鬼に勝つが、実は鬼の正体は牛で、牛の胃液のpHは中性に近いので溶けずに出てこられた。

正体が牛の鬼に食べられた一寸法師は、鬼の腹の中を針でつついて勝ち、鬼に吐き出された。退散した鬼が置いていった打ち出の小槌を振ると、一寸法師は一瞬で身長が伸びるが、その理由は、打ち出の小槌には牛のミルクが入っていたことと、大きな川のある都で暮らしていたため、ビタミンDと亜鉛の豊富な魚もよく食べていたであろうこと。カルシウム、ビタミンD、亜鉛を多く食べたことにより、身長が急激に伸びた。

柳田理科雄のコメント

一寸法師が身長一寸で生まれた理由に始まり、鬼の胃の中で溶けなかった理由を経て、打ち出の小槌でたちまち大きくなれた理由まで明らかにしています。まるで大河ドラマのようにダイナミックで、思考力の力強さを感じます。

また、一つひとつの疑問について、実によく調べています。「軟骨無形成症」という病気は、僕も初めて知りました。骨は軟骨が骨に変わることによって伸びるので、軟骨が形成されなければ、確かに身長は伸びにくいでしょう。そして、極めつけは、牛の胃液のpH! これを自分で調べた高校生は、世界的にも稀有だろうと思います。これが、最大の謎を解く鍵になり、打ち出の小槌で大きくなった理由にもつながりました。本当に世の中、調べてみると思いがけない発見がありますね。

1つだけ、「身長1寸の新生児の体重が250g」と言うのは、ちょっと違うかなと思います。新生児は身長50cm、体重3㎏ぐらいで生まれてきます。1寸=3㎝は、その17分の1です。相似な立体では、体積は長さの3乗に比例するので、体の密度が同じなら、体重は17の3乗=4913分の1で0.6gほどになります。これで鬼に勝てたのですから、いよいよビックリですね。

牛の胃液のpHは6.4。一生忘れません!