昔話紹介
夫婦が、指先ほどの小さな子供を授かり一寸法師と名付けた。いつまでたっても体は小さいままで、立派になるために都に出て大きな屋敷のお姫様のお付きに雇われる。ある日、鬼がやってきて一寸法師が退治すると、打ち出の小槌を鬼が落とした。小槌を使って体を大きくし、立派な若者となりお姫様と仲良く暮らしていった。
材料と検証
東京大学理学部生物学科(動物学)卒業の本川達雄氏の書いた『ゾウの時間 ネズミの時間』という本には「体重が重くなるにつれ、だいたいその1/4(0.25)乗に比例して時間が長くなる」とあった。成人男性の平均身長を調べると、「社会実情データ図録」に 約172cm とあった。一寸は約 3cm なので 172÷3=約57倍 になっている。大きくなる前と後の体の密度を等しくして考えると体重が 約185193(57の3乗)倍 になる。時間は体重の1/4乗なので 185193の1/4乗をして約20.7倍 になる。なので一日を約二十日に感じることとなる。
結論と、それにより物語はどう変わる?
体が大きくなることで体感時間により、生活にゆとりができ、したいことをたくさんできるが、余暇が増えたためだらけてしまう。
小槌を使って大きくなると余暇が増え、立派な若者だった一寸法師がだらしない若者となり、周りの人からの信用を次第に失っていった。そのあまりにもひどい態度のためお姫様にもふられ、町を追い出されてしまった。
柳田理科雄のコメント
一寸法師の時間感覚……すごいところに目をつけましたね!
「体格で体感時間が変わる」という説に、どこで出会ったのだろうと驚きました。普段からよく本を読んでいるか、いろんな人と話しているか、いずれにしても、いいコミュニケーションが取れていることが伝わってきます。本川先生も、ご自分の本を、中学1年生が研究に役立てていることをお知りになったら、とても喜ばれるでしょう。
「1/4乗」は、高2にならないと習わない考え方ですが、これも知っていたのでしょうか。あるいは今回初めて出会って、先生に質問したのでしょうか。前者ならもちろんすごいことですが、後者だとしても「習っていないことも、調べて使ってみればわかる」という、勉強の理想形の1つを体験し、読む人にも示してくれたことになります。みんなにとって実り豊かな研究だと思います。
また、体重が身長の3乗に比例するのは、体の密度が等しいときだけですが、その点もしっかり押さえていて、論の展開が丁寧です。
そして、「時間が21倍に長く感じられる」という数字上の結論で終わらせず、それが一寸法師の生活態度にどんな影響を及ぼすかまで考えたのがいいですね。その結果、一寸法師はお姫様にふられてしまった! 科学的考察から、日常感覚への見事な着地! もう腹筋を引きつらせて笑いました。