上へ戻る

空想科学ゼミ SEMINAR

疑問を抱き、材料を集め、自ら考える

ホーム > 空想科学ゼミ > 昔話を空想科学しよう! > 『さるかに合戦』 カニが無事に柿を食べる方法はなかったのか?(心那・大手前丸亀中学校2年)
研究報告
『さるかに合戦』 カニが無事に柿を食べる方法はなかったのか?
(心那・大手前丸亀中学校2年)
疑問
「さるかに合戦」でカニが猿に柿をぶつけられるが、カニが無事に柿を食べる方法はないのだろうか。

昔話紹介

カニが植えた柿の種が成長して、柿の木になった。木に登れないカニを見て猿は柿をとってあげるといって、木に登り、自分だけ柿の実を食べた。それを見たカニが催促すると、猿はカニにまだ青い柿の実をぶつけた。カニは下じきになってしまった。

材料と検証

①カニの種類について

NHK for school(*1)では「森に住むアカテガニ」という動画があり、大学でカニについて研究していた父に聞いてみると、水辺でなくても生活できるカニでよく見かけるのはアカテガニだとわかった。また、絵本で出てくるカニは赤色のものが多いので、その見た目にもあっている。よって、さるかに合戦のカニはアカテガニとする。アカテガニは穴は掘らないが、もともとある隙間に隠れることができるので、木の下に小さな隙間があれば、柿が落ちてきても、避けることができそうである。

*1(最終更新日不明https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005400735_00000)

②柿の木の高さと柿の当たりやすさについて

猿が柿の木の上から柿を落とした場合、どのくらいやるとカニに当たるかを調べるために、柿とだいたい同じ重さ(約350g)になるようにみかんを二重にした袋に詰めたものと炭酸飲料の空のペットボトル(カニの甲羅をイメージし、普通のペコペコしたペットボトルよりも、硬いものにした)を用意し、みかんが入った袋を家の二階から一階に固定したペットボトルを狙って落とすと6回やっても当たらなかった。柿の木は2m〜5mほどの高さであると祖父に聞いて、車での移動中や自転車での帰り道に柿の木を探して高さを見てみるとだいたいそれぐらいの高さであるのを確認した。よって、柿の木の高さを4mとする。家の二階から一階までの長さを測ると約4m(395cm)だったので、この実験は無風の状態で柿を落としたときと同じ状況を作れている。よって、一回だけ何も考えずに猿が柿を落としても、カニに当てるのは難しい。

③カニの目の見え方について

「動物は世界をどう見るか」(鈴木光太郎:作 新曜社 初版第一刷発行  1995年11月25日)という本を参考にすると、カニの見え方は詳しく書かれていなかったが、3つのことがわかった。1つ目はカニは複眼であるということ。2つ目は臨界融合頻度(CFF)という一定の時間に何枚の写真(コマ)を捉えられるかという値でCFFが高いほどブレの少ない像をたくさん捉えることができ、速い動きを捉えることができること。カニのCFFの値は書かれていなかったが、一般的に昼行性の動物のほうが夜行性より高い傾向にあり、速く動く必要がある動物ほど高い傾向にあるそうだ。アカテガニは夜行性で動きは速いためCFFは高いか低いかというと微妙である。3つ目は複眼でも、脳で情報を処理しているので実際にモザイク状に見えているとは限らないということ。また、お話が昼間だった場合、カニは夜行性なので、夜よりかは動きが鈍くなってしまう。しかし、昼に海に行っても、堂々と歩いているカニはおらず、大抵が巣穴や岩の下に隠れているので、危険を感じたら近くの隙間に入ることはできそうである。

④投げられた柿の状態について

猿が投げた青柿についてだが、猿が美味しそうと言って柿を食べに来ているのにも関わらず、青柿がまだたくさん残っているとは考えづらい。また、猿が柿を食べていた場所の近くに、たまたま青柿があるとも考えづらい。よって、猿が投げたのは青柿ではなく、オレンジ色になった柿だと考えられる。

結論と、それにより物語はどう変わる?

一回目で当たる可能性は低く、もし何回投げられたとしても、穴の中に隠れてさえいれば直撃は避けられるので、猿が投げたオレンジ色の柿を避けることができたに違いない。

柿の種を受け取ったカニは、早速種を植えました。実がなるまで時間がかかることを知っていたカニは、その種が育つように準備をしてから、もう実がなっている柿の木まで移動して、そこに穴をほりました。いよいよ、その木の実が食べられるようになったとき、カニは自分では取れないので猿を呼ぶために、大声で歌い出しました。猿が寄ってくると、早速自分が掘った穴に隠れて、猿に柿を取るように頼みました。猿がカニにめがけて柿を落とした瞬間、カニは自分の穴に引っ込んだので、ぶつかりませんでした。それを見た猿は、腹が立ってさらに柿を落としますが、穴の近くに落ちるばかりで、全然当たりません。ついに諦めた猿は帰っていってしまいました。帰っていた猿を見届けたカニは安心して、穴の近くに落ちた柿を食べました。

柳田理科雄のコメント

カニの習性について、よく調べましたね!

しかも、ネット動画、お父さん、お祖父さん、本と、情報源が多彩です。何とか調べようとする熱意を感じます。情報の取り扱いが丁寧で、とくにお祖父さんに聞いた柿の木の高さを、実際の柿の木を観察して、確かめているところがいいと思います。そして、カニがアカテガニであることがわかって、研究は大きく進みました。お父さんがカニの研究をしていて、よかったですね。

『動物は世界をどう見るか』は、僕も持っていますが、「臨海融合頻度」という言葉は頭に残っていませんでした。ぜひもう一度、読み直してみたいと思います。

実験も、柿やカニの甲羅を忠実に再現しようとしていて、とても丁寧です。みかんも、二重にした袋に入れたおかげで、それほど傷まなかったことでしょう。6回やっても当たらなかったということは、二階と庭を6回も往復したわけですね。お疲れさまでした!

カニの習性を調べた結果、納得のハッピーエンドとなりました。心がほっこりする結論です。