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空想科学ゼミ SEMINAR

疑問を抱き、材料を集め、自ら考える

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研究報告
『かちかち山』 うさぎは火を怖がらないのか?
(渡部 悠人・大手前丸亀中学校1年)
疑問
『かちかち山』でうさぎはたぬきが背負っていた薪に火打ち石で火をつけたが、うさぎは火を怖がらないのだろうか?

昔話紹介

『世界の神話・伝説』によると、おじいさんとおばあさんの畑を荒らしていたたぬきが罠に引っかかって一度は捕まったが、おばあさんを騙しておばあさんをばあば汁にした。おばあさんの仇を取るためにうさぎがたぬきをこらしめる話。

材料と検証

『科学情報誌』(最終更新日・2019年6月29日)によると「動物が火を怖がってしまうのは、慣れていないことが主な原因」と書いている。動物が火を目にするのは山火事、落雷、熱波などと言った生命の危険があることばかりである。動物は生きるためと子孫繁栄以外には身を危険にさらさないので結果的に逃げてしまう。しかし、人間は火を怖がらない。それは高い知能を持っているからだ。同じく人とよく似ているサルは焚き火の周りに集まってくることから、高い知能を持っていれば火を怖がることはないのだろう。

では、うさぎはどれほど賢い生き物なのだろうか? 今回は体重に対する脳の重さを表す脳化指数を使う。これは値が大きければ大きいほど脳が発達していることを表す。「jodhpurs](最終更新日・2019年9月6日)によると人、サル、うさぎのそれぞれの脳化指数を比べてみると、人は0.89、サルは0.25、うさぎは0.07と書いている。ではサルの知能は人間の何歳ぐらいの子になるだろうか。サルの知能は人間の3歳児ぐらいだと言われている。芸を覚えたり、さらには足し算までもしたりする個体がいる。またうさぎの知能は人間でいう1才児ぐらいだとされ、空腹のときは餌箱を鳴らしたりして空腹を表現する。サルとうさぎの知能から分かる通り、3歳児の知能であれば誰が何のために火を使っているか分かるかもしれないが、1才児では少し無理があるかもしれない。

しかし、今回出てきたうさぎは、ばあば汁に使ったおばあさんの骨が流しの所にあることを気付かされておじいさんが悲しんでいるときに「仲良しのうさぎ」として出てきた。ならばおじいさんが火を扱っていたのを何回も見たことがあるのではないだろうか。しかし知能は人間でいう1歳。そのような子供が火を見たりしたらどう思うだろうか? 多分、怖がったり、嫌がったりして泣いてしまうであろう。よってうさぎに火をつけることは不可能だ。

結論と、それにより物語はどう変わる?

たぬきの背中に火をつける作戦は失敗した。

うさぎはおじいさんを助けた時のように優しい性格に戻り、たぬきと話し合いでまとめようとした。しかしおじいさんはおばあさんを殺されてしまったことに対してずっと落ち込んでいるので、うさぎが一緒におじいさんと暮らして一歩一歩楽しい日を送ろうと努力する感動する話になっていった。

柳田理科雄のコメント

視点が独創的です! 日本の歴史も長いですが、『かちかち山』の話を聞いて、「うさぎは火を怖がらないのか?」と思った人がどれほどいるでしょう。

「動物は火を怖がる」というのは古くからの常識ですが、その理由については、僕も考えたことがありませんでした。「サルは焚火に集まる」という事実も初めて知りました。自分の常識を疑うチャンスをもらいました。

そして、よく「脳化指数」という言葉にたどり着きましたね。「脳化指数は当てにならない(2種の動物を比べたとき、脳化指数の低いほうが高い知能行動をすることがある)」という意見もありますが、多くの学者が試行錯誤しながら使ってきた考え方なので、答えのない疑問を解決するための道具としては、どんどん使ってよいと僕は思います。また、脳化指数は、計算の仕方が学者によって違うので、情報源をはっきり示したのは、とてもよかったと思います。

一つ残念なのは、「それは、高い知能を持っているからだ。」いうのが、『科学情報誌』に書いてあったことなのか、自分の意見なのか、現状ではハッキリしないことです。話が次に進む重要なステップなので、もし後者なら「と思う」などをつければ、読む人も納得して読み進められると思います。

うさぎは作戦に失敗しましたが、おじいさんに寄り添って生きる道を選びました。渡部さんが優しい人であることが伝わってきます。