上へ戻る

空想科学ゼミ SEMINAR

疑問を抱き、材料を集め、自ら考える

ホーム > 空想科学ゼミ > 昔話を空想科学しよう! > 『おむすびころりん』 おむすびの運動エネルギーは?(笹本 茉由・大手前丸亀中学校2年)
研究報告
『おむすびころりん』 おむすびの運動エネルギーは?
(笹本 茉由・大手前丸亀中学校2年)
疑問
昔話の「おむすびころりん」において、おむすびはどのぐらいのスピードで転がっていったのか?

昔話紹介

昔、おじいさんが山に芝刈りに行った。昼にお婆さんに作ってもらった弁当を広げたところ、おむすびが落ちて、転がり、穴に入った。おにぎりを追いかけたおじいさんも穴に落ちた。すると、その穴の中にはネズミたちがいた。そしてネズミたちはおむすびを取り囲み嬉しそうにしていた。(光村図書「こくご①上かざぐるま」より)

材料と検証

まず、おにぎりの形はどんな形なのか、ということについて考えてみた。調べてみると、江戸時代まで全国で9割以上の形が丸だったそうだ。そして江戸時代になってから、俵型、三角形が発明されたそうだ(Discover Lifeより最終更新日時 2022年4月6日 19:00)。「おむすびころりん」の時代は室町時代(絵本スペース最終更新日2021年8月23日)にできた物語なので、物語に出てきたおむすびは球体だったと考られる。

次に、おにぎりにはどれくらいの運動エネルギーがあったのか。エネルギーとは運動する物体の仕事をする能力のことであり、物体の運動エネルギーはk=1/2mv という公式で求められる。このk=1/2mv2という式の意味は、k=物体の運動エネルギー[Jジュール]、m=質量[kg]、v=速さ[m/s]ということである。また、1Jは1Nの力で物体を1m動かすときの仕事量である(家庭教師のトライTry It鈴木誠司先生より)。

質量は、コンビニのおにぎりと同じ約100gだとする。

速度は、次のようにして求めた。挿絵(光村図書「こくご①上 かざぐるま」より)で山の傾斜を分度器で測った結果、山の傾斜は20度だと推測した。また、「教科書の朗読CD」からおむすびが転がってから穴に落ちるまで、おじいさんの「待て、待て……」というセリフの時間を測ると18秒であることも分かった。そこで板で20度の傾斜を作り、実際に球体のおにぎり(ラップで巻かれている)を転がす実験をしてみた。傾斜があるとおにぎりはどんどん加速していき、実験すると転がし始めてから1秒後に進む距離はおよそ0.4m、2秒後ではおよそ1.6mだっ た。

おにぎりが転がり始めてからの時間t秒と転がった距離ymは2乗に比例する関数と考えて、y=at2に代入して、y=0.4t2 となるとした。よって、18秒では、129.6m転がると予想される。また17秒から18秒にかけて進む距離は14m増えるので、穴に落ちる直前のおにぎりは秒速14mのスピードがあったと考えた。これを時速で表すと時速50.4kmとなる。これは自動車が一般道を走るときの法定速度の60kmより少し遅いぐらいである。(チューリッヒ保険会社より)

したがって、おにぎりの持つ運動エネルギーは9.8Jとなる。穴に落ちてくるおにぎりはおよそ980gのものを1m持ち上げるぐらいのエネルギーを持っていることとなる。

さらに、穴を落下する間にも速度が速くなると考えられる。どれくらいの破壊力があるのかを調べる実験をした。二階のベランダ(地上から4m50cmの高さ)から真下(地面は土)に向けておにぎりを投げ落とす実験を行うことにした。おにぎりを追いかけておじいさんが穴に落ちていくことを考え、おじいさんが穴に落ちても大丈夫であろう深さとして、約4m50cmとした。なぜ穴の深さを約4m50cmにしたかというと、夏目漱石の「坊っちゃん」(新潮社 平成12年 百十一刷)の中で、「小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間程腰を抜かした事がある。」と記述があり、大人であれば多少の怪我で済む高さの上限であろうと考えたからである。ラップに包んだおにぎりを、地上のティッシュ箱(縦11.5cm✕横23cm✕高さ5.5cm)にむけて、私の全力で投げつけてみた。一般的に10代女子の投球速度は時速48.1㎞(八戸工業大学紀要 2017年3月31日)だから、私の全力投球で、理想的な時速50㎞くらいになるはずである。なかなか的に当たらず、投げること23回目で見事命中。おにぎりは大きく変形し、太宰府天満宮の有名なお土産である梅が枝餅のような形になってしまった。そして、ティッシュ箱は大きくへこんでしまった。これは想像を絶する破壊力である。

平和に楽しく暮らしているねずみさんの頭上から、ある日突然このようなスピードと破壊力を持ったおにぎりが落下をしてきたら、と考えると胸が痛くなる話である。ちなみに、大きく変形したおにぎりはしっかりとラップに包んであったため若干きりたんぽ化していたが、私の晩ごはんになった。

結論と、それにより物語はどう変わる?

よって、小柄なネズミさんにとって9.8Jおにぎりは自分たちの生活を脅かす脅威となると考えられる。

今日のお昼ごはんのメニューはみんな大好きなチーズ。こどもねずみたちの嬉しそうな声がねずみ御殿に響く。元気よく頬張ろうとした、その時だった。ドスーン!!地響きとともにネズミたちは跳ね上がった。子どもたちは「怖いよ〜」と叫び、お母さんねずみは砂埃で咳き込んでいる。少しずつ視界が良くなってきた。よく見てみると床は大きくへこみ、みんなが集まっているすぐ隣には体よりずっと大きな白い塊があった。たまたま昼食の時間中だったので、家族みんなが一箇所に集まり食卓を囲んでいて良かったが、もし遊び時間中でみんなそれぞれに散らばっていたら……と考えると恐ろしくなる。それにしても、こんなに大きな危険なものが、いきなり天井から降ってくるなんて、地下生活も楽でない。恐る恐る父ちゃんネズミが白い塊に近寄ってみると、「こ、これは何だ?あれ?これは、あの太宰府天満宮のお土産として有名な梅ケ枝餅?いや、秋田名物のきりたんぽ?いや、違う。あっ!おにぎりだぁ〜!」

柳田理科雄のコメント

非常によく調べ、よく考えた素晴らしい研究です!

おにぎりの形を確定することに始まり、おにぎりの運動エネルギーを実験から計算し、その破壊力も実験で求め、それがネズミたちの生活にどんな影響を与えたかにまで想像を羽ばたかせました。完璧な論理構成です。

なかでも感激したのが、おにぎりが転がる時間と距離の関係を、実験して調べたことです。室町時代の丸いおにぎりといっても完全な球ではなく、ラップで積んだとはいえ、おにぎりと斜面のあいだには摩擦力も働きます。また、高校でも習わないことですが、おにぎりのように大きさのある物体が斜面を転がり落ちるには、大きさの無視できるものが滑り落ちるより時間がかかります。確かにこれは、実験してみるしかないでしょう。同じ研究を僕がやったとしたら、いろんなことを単純化して計算だけに頼ってしまい、見当外れの結論を出してしまったかもしれません。冷汗をかく思いです。

おにぎりがティッシュの箱に当たるまで23回も投げ続けたのも、なかなかできることではありません。

情報をどこで手に入れたか、その情報はいつどこで発信されたのかを明確にしているのも、とてもいいですね。同じことに興味を持った人が、助かると思います。

最後のネズミ御殿の大騒ぎも、リアルでとても面白いです。父ちゃんネズミが、落ちてきたのがおにぎりだと気づくまで、他のものと2度も間違えているのも、実験したからこそ浮かんできた想像ですね。楽しい研究をありがとう!