昔話紹介
お寺の小僧さんが山に栗拾いに行って迷い、おばあさんの小屋で泊まることになる。ところが、おばあさんは鬼婆(おにばば)で、小僧さんは和尚さんにもらった三枚のお札で寺に逃げてくる。和尚さんは小僧さんをつづらに隠し、天井にぶら下げた。鬼婆が「高くなれ」と言うと、鬼婆の身体が大きくなり、和尚さんが「低くなれ」と言うと、豆粒ぐらいまで小さくなる。それを和尚さんが一口に呑んで、小僧さんは助かりました。
材料と検証
まず、お札を投げて火が出たので、「火がない状態から火が発生することがあるのか」と思い、火を発生させる方法を調べた。すると、「自然発火」と言って、人為的に火をつけなくても出火することが分かった。
そのなかで、黄リンという物質は、常温の大気中で僅かに衝撃を与えるだけで自然発火が発生するということが分かった。
つまり、お札のまわりに黄リンを付着させ、投げるときに衝撃を与えて発火させ、草などに燃え移って火事が発生ということは、おそらく可能だということが分かった。
しかし、黄リンが発火する原因は、非常に酸化しやすいということなので、お話の通りに持っていると、夜になる前に発火してしまうと考えました。
結論と、それにより物語はどう変わる?
お札を投げるだけで火がつくというのは、おそらく可能だが、お話通りだとそれまでに燃えてしまう。
三枚のお札をもらい、山に来た小僧さんが栗拾いをしていると、お札から煙が上がり、すぐに燃え出してしまいました。驚いた小僧さんは、和尚さんにお札のことを聞きにお寺に帰りました。
柳田理科雄のコメント
バーベキューなどで経験するように、火を起こすのはなかなか難しい作業です。まして火打ち石しかなかった昔は、もっと大変だったでしょう。なのに、お札を投げただけで山火事が起きた……よく考えると、驚くべき現象です。
つい見落としがちな疑問から出発して、「自然発火」「黄リン」という納得の可能性にたどり着いたのは見事です。どんな不思議な現象も、よく調べると答えが見つかるという実例を示してくれました。そして「投げる前に燃えるかも」という欠点に気づいたのも、なかなかできることではありません。この問題に真正面から取り組んだおかげで、お話が予想もしなかった方向に展開しました。
この結末、単なる脱力系のオチではないと僕は思います。自然発火するお札のおかげで、鬼婆との遭遇を回避できたのですから! 超ハッピーエンド! う~ん、奥が深い。