華やかな人気アイドル。だが、その仕事を冷静に考えると、めっちゃ大変そうだ。ステージやテレビ出演やCM撮影など、スケジュールを埋め尽くす仕事の合間を縫ってレッスンに励み、各種SNSにも精を出す。礼儀や言葉遣いがきちんとしているのはもちろん、マネージャーやスタッフや取材の相手には感謝と敬意を抱いて誠実に対応する。業界や世代を超えた豊かな人間関係を築き、健康管理に万全を期すのは当然で、筋トレも有酸素運動も欠かさず、話題の映画や舞台や動画はチェックして人間性を深め……。むえ~。書いているだけで頭がクラクラする。筆者はアイドルにならなくて本当にヨカッタ。
そんなアイドルたちのがんばる姿が描かれているのが、『ドリフェス!』だ。2次元と3次元で展開される「合計5次元のアイドル応援プロジェクト」だが、ここで注目したいのはアニメ版。
ステージが始まると、観客が手元の装置から「ドリフェス!カード」を発射する。きらめく紙吹雪のように会場を舞う「ドリカ」は、ファンからのエールであり、ファンの思い。これをキャッチしてキスすると、体からオーラが放たれ、ドリカに描かれている姿に変わる!
アニメで興味深いのは、このドリカをキャッチするための特訓が描かれていることだ。それも並の特訓ではない。防具に身を包み、なんと時速150㎞で飛んでくる鉄板を受け止める!
アイドルが大変というのは前述のとおり筆者も理解していたつもりだが、これはすごい。そんなことしちゃって大丈夫なのか? イケるっしょ!? うーん、イケるかなあ……。
◆鉄板が時速150㎞で飛んでくる!
主人公の天宮奏がアイドルを目指すことになったのは、アルバイトで風船を配っている姿を、伝説のアイドル・三神遥人に見られたのがきっかけだった。広場で何時間もかけて500個の風船を配り続けても、奏は疲れた顔も見せず、逆に人々を笑顔にしていった。
三神はそこに、奏のアイドルとしての才能を見出したのだ。奏は事務所に誘われ、佐々木純哉や及川慎を紹介され、ほどなくオーディションとして、彼らといっしょにライブに出演する。……って、あのう、アイドルって、超満員のライブにいきなり出て歌い踊るのがオーディションだったりするのでしょーか。筆者には全然わからないですが、ちょっと驚いたよ。
このステージ上で、観客席から飛んできたドリカを初めて受け取ったとき、奏は大きく後ろに飛ばされた。印象としては5mくらいか。ドリカも弾いてしまったが、走っていってなんとかキャッチした。奏は「エール、重っ!」と驚いていたから、ドリカのキャッチはかなり難しいのだろう。なるほど、だからオソロシイ特訓が必要なのだな。
特訓の場所は、D-Fourプロダクションの建物内。バッティングセンターのような構造の専用スペースがあるらしく、奏たちは、防具とフィンガーレスグローブ(指先の出る手袋)を装着して、飛んでくる鉄板を受け止めるのだ。
その鉄板というのが、またイカツイ。縦横が市販のドリカと同じなら、11.8㎝×8.4㎝。でも、アニメの鉄板は厚さが3㎜ほどはあって、このサイズの鉄板は重さ230gだ!
奏がブースに入ると、顔の横を掠めた鉄板は、ドキャン!と金属音も高らかに緩衝材に突き刺さった。奏がア然としていると、物腰の軟らかい片桐いつきが、鉄板を引き抜きながら「エールはドリカが示すもの。ファンからのエールをしっかり受け取るための……えいっ(ようやくここで鉄板が抜けた)……特訓です」と、爽やかな笑顔を向ける。オソロシイ!
そして、沢村千弦がかわいい顔で「じゃ、ま~、最初は150㎞からね~」とスピードを設定。次々に鉄板が飛んでくるが、奏は避けるのが精いっぱい。千弦が「かなちゃん、避ける練習じゃないんだよ」と注意し、奏が「そんなこと言ったって、これ絶対無理っしょ」と言ってるところにまた鉄板が飛んできた! 千弦は事もなげに人指し指と中指で挟んでキャッチ。鉄板は、奏の顔前20㎝で止まっていた……。
その後も特訓は続けられ、奏は腹に当たって悶絶したりしていたが、いつきと千弦は笑顔で鉄板をキャッチし続ける。どーなってんだ、このヒトタチは~!
◆もし鉄板が当たったら!?
時速150㎞で飛んでくる230gの鉄板。こんなものが当たったら、どうなるのだろうか。
230gとは、野球ボールの1.6倍。それが時速150㎞で飛んでくるのだ。プロ野球の試合でも、デッドボールをまともに食らった選手は昏倒してしまうが、その1.6倍の重量のものが顔面にでも当たったらイチコロでしょうな~。防具の上からでもかなりの衝撃だと思う。
しかも、飛んでくるのが鉄板である。野球のボールなら、多少でも変形して、当たったときの衝撃は和らげられるだろうが、鉄板は変形しない。変形するのは防具と自分の体だけで、しかも奏がつけている防具は非常に薄く、凹む深さは体の変形も合わせて1㎝ほどではないだろうか。すると、瞬間的にかかる衝撃力は2.1t。乗用車に轢かれたほうが、まだマシだ。そして変形しないがゆえに、破壊力もものすごく、標準サイズのレンガを打ち砕く!
奏が「スカウトされた」と伝えたとき、母親は「いいじゃない」と軽く賛成していたが、こんな特訓が待ち受けていると知っていたら、絶対に反対したに違いない。
◆そこまでの怪力が必要なの!?
これほどの威力となると、ソラ恐ろしくなるのが、平然とキャッチしたいつきと千弦だ。彼らはどんな能力の持ち主なのか!?
前述のように、2人は鉄板を人差し指と中指でキャッチした。これは、鉄板が人差し指と中指のあいだを通過する間に、2本の指で挟んだということだ。時速150㎞で飛んでくる鉄板が、自分の縦の長さと同じ11.8㎝を飛ぶのに要する時間は、わずかに0.0028秒。
つまり、真ん中を挟もうとして指を閉じるとき、許される誤差は0.0014秒しかない。これより0.0001秒でも遅ければ指はスカッと空振りし、早ければ閉じた指を鉄板が直撃してしまう。
そして、閉じただけではダメで、しっかり挟みつけて、鉄板の運動を止めなければならない。頼りになるのは指と鉄板のあいだに働く摩擦力で、もっとも小さくて済むのは、鉄板の先端を挟みつけて、摩擦力を受けながらも鉄板が滑っていく距離を、鉄板の縦の長さ未満に抑えること。これに必要な摩擦力を求めて、挟みつける力を計算すると、それはなんと180㎏!
しかも、いつきと千弦は、鉄板を滑らせることなく、真ん中でビシッと止めている。これはもう本当にスゴイ。まったく滑らせずに止めることは不可能(無限大の力が必要)だから、1㎝滑ったとすると、指で挟みつけた力は4.2t! こんなに指の力が強い人は、力士やプロレスラーにもいないと断言できる。こんな怪力が、アイドルに必要なんですか~!?
さらに心配なのは、摩擦で発生する熱だ。鉄板を1㎝滑らせて止める場合、静止までの所要時間は0.00048秒。この短時間では、発生した熱は指の皮膚に伝わるのが精いっぱいだろう。人間の指の皮膚は厚さ0.1㎜ほど。指が鉄板に触れている部分が、縦2㎝、横1㎝の楕円形だとして、熱が鉄板と指に均等に伝わったとすると、指の温度は810℃に上昇する! 空焚きしたフライパンは400℃にも達するけど、指が810℃になっても特訓を続けるいつき&千弦は、焼けたフライパンに触れても平気ということだ。
どんなアスリートよりも強く、熱いフライパンに触っても、笑顔を絶やさない。こんな超人的な能力とメンタルを持っているとは、アイドルとはなんてスゴイ人たちなのだろう。あまりに次元が違います。筆者はアイドルにならなくて本当にヨカッタ……。【了】