上へ戻る

空想科学読本WEB

kuso-web

ホーム > お知らせ > 仮面ライダー555は、10秒間だけスピードを千倍にできる! 実戦したらどうなるか?
  • お知らせ
  • 空想科学読本WEB
  • Facebookで記事をシェア
  • Twitterで記事をシェア

仮面ライダー555は、10秒間だけスピードを千倍にできる! 実戦したらどうなるか?

時代が令和になってしもうたので、『仮面ライダー555』が「平成ライダーシリーズの第4作」と思えば、もうずいぶん昔のことのように感じるのう。いまや『555』を覚えている人も、どれだけ生き残っているかのう……。

などと老け込んだりはしませんぞ。30年経とうが、50年経とうが、筆者は『555』を忘れない。心ならずも怪人「オルフェノク」になってしまった人々の悲しみが胸に迫る名作であった。彼らを支えようとする人々の善意にも胸打たれる傑作であった。

だがそれ以上に、仮面ライダーファイズの能力が科学的に素晴らしかったのだ。左手首の機械を操作してアクセルフォームにチェンジすると、10秒間だけ、あらゆる動作のスピードが千倍になる!

千倍って、すごくないですか。千倍になれば、体長30㎝の子猫が300mになり、月給20万円が2億円になる。なんかよくわからんけど、モノスゴイ!

もちろん、仮面ライダーファイズは千倍に巨大化したり、千倍の大金持ちになったりするのではなく、動作が千倍にスピードアップするだけだ。しかし、あまりにすごいアップ率。いきなり動きが千倍に速くなっても大丈夫なのだろうか。この問題を真剣に考えてみたい。

◆バイクに乗るよりずっと速い!

男子100m走のいちばん古い記録は1912年の10秒6。それから1世紀以上経ったいま、世界記録は9秒58である。100間のスピードアップ率は、わずかに1.1倍だ。

また、東海道新幹線の最高時速は、開業時(1964年)が時速210㎞だったのに対して、現在は時速285㎞。技術の粋を凝らしても、半世紀で1.4 倍増である。

それに対して、仮面ライダーファイズは千倍! これは時速4㎞で歩く人が、時速4千㎞=マッハ3.3と、ジェット戦闘機(マッハ2.5)を超える速度で走れるようになるのと同じ。しかも、フォームチェンジすることで、瞬時にこれだけのスピードアップを果たすのだ。

ファイズのこの能力は、劇中でも見事に発揮されていた。倒すと決めたオルフェノクに対して、アクセルフォームになったファイズは何度も行ったり来たりして、すれ違いざまにパンチやキックを雨アラレと見舞ったのである。これぞフルボッコ。オルフェノクが気の毒になるほどだった。

ファイズは具体的にどれだけ速く動けるのだろうか?

『平成仮面ライダー列伝』(徳間書店)によれば、平常時のファイズは100mを5.8秒で走れるという。すると、アクセルフォームで千倍速になれば0.0058秒。これすなわち時速6万2千㎞=マッハ51だ。彼のバイク・オートバジンは最高時速380㎞だから、バイクに乗るより走ったほうがはるかに速い!

ここまですごいと「ライダー」としての存在意義が問われますなあ。

◆10秒で8620発の連続パンチ!

この能力が戦闘に用いられたら、どんな威力になるのだろうか。

たとえば、あるオルフェノクがプロボクサーと同じ秒速12mのパンチを放ってきたとしよう。オルフェノクの拳が動き始めると同時にファイズがダッシュし、100m先まで行って帰ってきたとしても、まだ0.0116秒しか経っていない。相手の拳はたった14㎝動いただけ! これほどのスピード差があったら、やりたい放題、攻め放題である。

右に挙げた、行ったり来たりしてオルフェノクをボコボコにしていたシーンを具体的に考えてみよう。

仮に、ファイズが10mの距離を往復したとしよう。5m走るあいだに最高速度に達してオルフェノクを殴り、5mでブレーキをかけて止まったとすれば、1発殴ってから次に殴るまで、たったの0.00116秒。かわいそうにオルフェノクは、わずか1秒間に862発も殴られてしまうのだ。制限時間の10秒で8620発! 10秒後には挽き肉になっているんじゃないか。

◆耳が痛くなる

もちろんこの能力にも弱点はあって、それは何度か述べてきたように「アクセルフォームになれるのは10秒だけ」という時間制限。確かに10秒は短い。しかし、10秒間あれば8620発も殴れるのだから充分だろう。10秒走り続けると172㎞、東京から静岡まで行けてしまうし、やっぱりバイクもいらん。ここまで速いと10秒でいろいろできてしまうのだ。

むしろ筆者が心配なのは、マッハ51というスピードが速すぎて、まともに走れるだろうかということだ。地球は丸いから、走れば遠心力が発生する。マッハ23.2を超えると、遠心力が重力を上回って、自動的に体が浮いてしまうのだ。そうなったら走れなくなるから、おそらくファィズは、マッハ51⇒マッハ23⇒マッハ51⇒マッハ23……と速度を変えながら、地面から離れない工夫をするしかないだろう。能力が高すぎるがゆえの苦労である。

さらに心配なのは、ドップラー効果。音を出すものや自分自身が運動すると、音の高さが変わる現象で、どちらも近づくと高くなり、遠ざかると低くなる。救急車のサイレンの音が有名だ。

マッハ51で走るファイズの場合、そのキツいのが起こる。これは、ファイズにとってキビシイ現象だ。

もしあなたがオルフェノクになってしまい、ファイズと戦うことになったら、これを利用よう。つまり、あらん限りの大声で精いっぱい「やめてくれ~!」と叫ぶのだ。全速力で殴りかかってくるファイズにとって、その声は5.7オクターブ高く聞こえる。甘いバリトンが、ピアノのいちばん右の「ド」より高音に! しかもファイズにとって、その声はマッハ52(音速のマッハ1+自分のマッハ51)で伝わってくるため、短い時間にエネルギーが集中し、音量も52倍! モノスゴク耳が痛い!

◆本を書く速度を千倍にしたら?

もう一つ気になるのは、ファイズに変身する乾巧が、この能力に耐えられるのかという問題だ。

ファイズは平常、高度35mまでジャンプできる。身長186㎝、体重91㎏という体格でこれだけのジャンプをするには、1300kW(F1用エンジンの2.6倍)のパワーが必要だ。普段でさえこれなのに、スピードが千倍になったら、どうなるか?

人間や機械を動かすのに必要なパワーは、速度の3乗に比例する。スピードが千倍なら、パワーは千×千×千=10億倍。すると、アクセルフォームに求められるパワーは1兆3千億kW。全世界の発電力の530倍だ。

この激烈なパワーは、ファイズのベルトを開発したスマートブレイン社の技術が可能にしているのだろう。それでも乾巧が心配である。

人間が走れば暑くなり、車が走ればエンジンが熱くなるように、動物や機械が運動すると、必ず熱が発生する。人体の場合、発生する熱は運動エネルギーの3倍強。1兆3千億kWを10秒間出し続けた場合、乾巧の体温は1500億℃に上昇してしまう! 生きていられるかなあ。それでも命があるなら、敵に抱きつくだけで強烈な攻撃になると思うが。

さらに心配なのは、走り始めてスピードを上げるときである。車が急発進すると、体はシートに押しつけられるが、あれのモーレツなヤツが起きるのだ。たとえば5m走るあいだにマッハ51まで加速すると、その力は重力の300万倍、すなわち300万G! スマートブレイン社の技術で体そのものは何とかなっても、頭蓋骨の中の脳を守ることができるのか。速度を千倍に上げた途端、脳は頭蓋骨の裏側にへばりついて、ばったり倒れてしまうのでは……!?

やはり千倍のスピードを戦いに使うのは、キケンなのだ。そういう能力は、ぜひとも筆者に与えていただきたい。筆者は本稿のような原稿を1本書くのに5時間ほどかかるが、スピードが千倍になればたったの18秒で完成するではないか! 脳へのダメージもないだろうし、これこそ理想的な千倍モードの使い方……って、あ。でも千倍の速度で書けるのは10秒だけか。すると原稿の56%が終わるだけ。残りは2時間13分をかけて地道に書くしかない。むむむのむ~。【了】