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小さなモンスターボールに、ポケモンが入る。どうなっているの?

『ポケットモンスター』の世界に欠かせないアイテムが「モンスターボール」である。

たとえばアニメでは、主人公のサトシが「☆☆☆(ポケモンの名前)、お前に決めた!」などと叫んでモンスターボールを投げると、ポケモンが光とともに飛び出す。また「戻れ、☆☆☆!」と言って、モンスターボールが放つ光を当てると、ポケモンはボールの中に戻る。

『ポケモン』の世界では、とってもおなじみの光景。しかしこれ、科学的にはヒジョ~に不思議だ。

アニメの描写を見ると、普段のモンスターボールは直径4㎝ほど。ピンポン玉くらいの大きさだ。真ん中のボタンを押すとググッと大きくなるが、それでも10㎝弱で、せいぜいソフトボールくらい。これに比べると、ポケモンたちはずっと大きい。なかには、大きさが数mのものや、体重が数百㎏のものもいる。

どうしてこんなに大きな生物が、あれほど小さなボールに入れるのだろうか?

◆「質量保存の法則」という壁

モンスターボールの不思議な収納力について調べると、最初のゲーム『ポケットモンスター赤・緑』が出た直後に刊行された『ポケットモンスター図鑑』(アスペクト)に、次のような説明があった。

1925年、タマムシ大学のニシノモリ教授は、オコリザルの研究中に、薬の量をうっかり間違え、オコリザルを衰弱させてしまう。すると驚くべきことに、オコリザルは体が小さくなり、教授の眼鏡ケースに入ってしまった。この事件から、ポケモンは弱ると体を小さくして、狭いところに隠れる習性があることがわかった。これをきっかけに、モンスターボールの開発が始まったという……。

なるほど、ことの起こりはオコリザルだったのか。ポケモン図鑑によれば、いつも怒っているオコリザルは「たかさ1.0m、おもさ32.0㎏」。これが眼鏡ケースに入ったということは、体の大きさが30分の1ほどに小さくなったと考えられる。この怪奇な現象を初めて目にしたニシノモリ教授は、心底びっくりしたでしょうなあ。

これを、科学的に考えるとどうなのか。

現実の世界を見てみれば、たとえば南米に生息するアベコベガエルは、オタマジャクシのときには体長が20~25㎝ほどもあるのに、変態してカエルになったときの大きさは5~7㎝ほどだという。成長して体が3分の1から5分の1にも小さくなるわけで、まさにアベコベ。非常に珍しい動物だ。現地では、アベコベガエルのオタマジャクシを食用にするが、確かにオタマジャクシのうちに食べないと、もったいないですな。

妙なナットクをしている場合ではない。アベコベガエルでもポケモンの30分の1という縮小率には及ばない。何より、変態という成長の一段階で小さくなるだけで、その後また大きくなるわけでもない。何度でも大きくなったり小さくなったりするポケモンとは根本的に違うようだ。

生物に限らなければ、大きさが変化する物質は珍しくない。たとえば、水は凍って氷になると、体積が10%増える。ドライアイスに至っては気化して二酸化炭素になると、体積は850倍にも増大する。

ただし、この世界には「質量保存の法則」があり、物質が変化しても、原子の総量は変わらない。この法則に沿って考えれば、ポケモンがどれほど小さく変化しても、その体を構成する原子の量は変わらず、したがって体重も変わらないことになる。たとえば、グラードンの体重は950.0㎏と乗用車ほどもあるが、ピンポン玉サイズになってもやっぱり950㎏のはずである。そんなモンスターボールを持ち歩くのは、モノスゴ~ク大変なのでは……。

◆サトシの命が心配だ!

しかし、サトシたちが「モンスターボールが重いよ~」などと、苦しんでいた様子はない。その事実から考えれば、ポケモンたちはモンスターボールに入ると、体が小さくなると同時に、体重も軽くなるのかもしれない。

グラードンの場合、元の身長は3.5mだ。それが、ピンポン玉くらいのモンスターボールに入るということは、せいぜい3㎝ほどになるのだろう。その際、体が相似縮小するとしたら、体長3㎝のグラードンは体重0.6gになる。1円玉1枚が1gだから、それより軽い。

この結果、持ち運びはとっても便利になるけど、気になる問題がある。もともと950㎏だったグラードンが0.6gになったのだから、グラードンの体を作っていた949.9994㎏の物質はどこかへ行ったことになる。いったいどこへ消えたのか?

ひょっとして、固体のドライアイスが気体の二酸化炭素になるように、ポケモンの体を構成していた物質が、気体になるのだろうか。だとしたら、質量保存の法則に反することはない。体を作っていた物質は、空気中に散らばっただけで、消えたわけではないからだ。

だがその場合、トレーナーたちの身が心配になる。

ポケモンも生物である以上、体の大部分はタンパク質でできているはずだ。タンパク質は生物の体を作る物質で、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄が含まれる。これが気体になると、アンモニア、二酸化窒素、硫化水素、亜硫酸ガスなど、そうそうたる顔ぶれの有毒ガスが発生する危険がある。トレーナーが「戻れ、グラードン!」と叫ぶと、その体を作っていたタンパク質が一瞬で気体になって、周囲には有毒ガスが立ち込め……。

これ、ヒジョ~に危ない。ガス中毒でバッタリ倒れるのではないか。科学的に考えると、ポケモンバトルはトレーナーにとっても、命がけの勝負なのだ。

◆元の大きさに戻る不思議

しかもポケモンたちは小さくなるだけではない。トレーナーに呼ばれたら、モンスターボールから飛び出し、元の大きさに戻って戦わねばならないのだ。

グラードンの場合、モンスターボールの中では0.6gだったのに、一瞬で950㎏になる必要がある。すると今度は逆に「949.9994㎏もの物質をいったいどこから持ってくるのか」という問題が発生する。

ここでも、質量保存の法則に従うなら、周囲にあるさまざまな物質を瞬間的に取り込んでいると考えるべきだろう。タンパク質を作る炭素、水素、酸素、窒素、硫黄は、空気中にある。モンスターボールには、これらを取り込んでタンパク質に変え、ポケモンの肉体を作る仕組みが備わっているのかもしれない。

とはいえ、これを実際にやるのは大変だ。集めるのが大変そうなのは、炭素だ。炭素は、生物の体の20%を占める一方で、空気中に0.6%しか含まれていない。グラードンの体を作る190㎏の炭素を収集するには、31.55tもの空気を集める必要があるのだ。そのうち吸収するのは合計950㎏だから、いらない30.6tは排出しなければならない。捨てる空気は体積にして2万5千m³。学校の体育館2.5杯ほど!

問題は、ポケモンの出現が一瞬で起こることだ。体育館2.5杯分もの空気を、直径10㎝弱のモンスターボールが瞬間的に吸収&排出すると、空気はものすごい速度で動く。吸収と排出を1秒で行うとしたら、吹き出す風はマッハ9400。

この猛風は直撃した地面をクレーターのようにえぐり、周囲に吹き広がる。森の木々は次々になぎ倒され、サトシ、ピカチュウ、相手のトレーナー、ポケモンなど関係者一同は超音速の風に吹き飛ばされ、もうポケモンバトルなどやっている場合ではない。呼び出されたグラードンも、風の吹き出す力でモンスターボールごと持ち上げられ、光速の34%=マッハ29万で宇宙の彼方へカッ飛んでいく。あとに残るはクレーターばかり。そこで何が行われたか、語り継ぐ者はいない……。

大きなポケモンが、小さなモンスターボールに入り、呼ばれると出てくる。アニメで見ていると、ココロ躍る魅惑の出来事だが、科学的に考えると、あまりにすごい行為である。それを平然とやっているポケモンたちは、なんと驚くべき存在であろうか。【了】