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『ドラえもん』のタケコプターがあれば、実際に空を飛ぶことができるのか?

マンガやアニメに登場する「すごいアイテム」は数多あるけど、なかでもすごいのは『ドラえもん』のタケコプターだ。

小さなプロペラを頭につけて、気軽に空を飛ぶ。のび太の部屋の窓からでもホイホイ飛んでいける。22世紀からやってきたドラえもんは、ひみつ道具をいっぱい持っているけど、シンプルで便利なアイテムという意味では、これが№1だろう。

にもかかわらず、実際にタケコプターが開発されたという話は聞かない。「タケコプター」というからには「竹トンボ+ヘリコプター」の発想なのだろうが、もちろん竹トンボもヘリコプターも実際に飛んでいる。

するとタケコプターだって飛べそうな気がするのだが、なぜこれは実現しないのか? タケコプターには、何か問題があるのだろうか?

◆タケコプターの問題点

タケコプターとヘリコプターの明らかな違いは、プロペラの大きさだ。ヘリコプターには、機体よりずっと大きなローターがついている。これに対してタケコプターのプロペラはドラえもんの頭より小さく、直径が20㎝ほどしかない。

これにより、科学的に重大な問題が発生する。せっかくプロペラが起こした風が、自分の頭を直撃するのだ。ドラえもんは頭の周囲が129.3㎝という設定だから、直径を計算すると41㎝。タケコプターの推定直径20㎝に対して、頭が倍も大きいため、プロペラが起こした風のほとんどは頭を直撃して、頭部を下向きに押しつける。

その一方で、頭頂部だけは、上昇しようとするタケコプターに持ち上げられる。つまりドラえもんの頭は、押し下げる力と、持ち上げる力、矛盾する2つの力を受けるのだ。

飛ぶのに役立つのは、頭の周辺からわずかに漏れる風だけである。漏れる風を全体の10%と仮定すれば、体重129.3㎏のドラえもんが飛ぶためには、プロペラは1293 ㎏の力を出さねばならない。その90%に当たる1163.77㎏が頭を押さえつけ、差し引き129.3㎏がドラえもんの体を持ち上げることになる。

その結果、どうなるか? 頭全体はぎゅ~っと押さえつけられているのに、タケコプターが接している頭頂部だけが、それを上回るモノスゴイ力で引っ張り上げられる! これはキツイ!

てっぺんだけを引っ張られたドラえもんの頭は、むにょーんと水滴のような形に変形するだろう。場合によっては、ドラえもんの頭にはヒビが入り、やがてバリバリッと頭皮がはがれ、タケコプターといっしょに飛んでいくかもしれない。想像すると、ヒジョ~に怖い!

◆デカコプターかミニコプターか

現状のタケコプターで飛ぶのは難しそうだが、実現する方法はないのだろうか。

頭に風を当てないためには、ヘリコプターのようにプロペラを大きくする、という方法がある。プロペラは外側ほど速く動き、強い風を起こす。その風は体の横をすり抜けて、頭には当たらないからだ。

どれほどの大きさなら飛べるのか。プロペラは、先端の速度が音速に近づくと、持ち上げる力が弱くなってしまうから、ここでは先端の速度を音速の90%に抑えるとしよう。これでドラえもんの体重129.3㎏を支えるのに必要なプロペラの直径は2m。大きめの傘でも、直径は130㎝ほどだから、それよりずっと大きい。回転を始めると、まるでビーチパラソルのように見えて、誰もタケコプターとは思うまい。

外見だけの問題ではない。物体に力を加えれば「作用・反作用の法側」で、自分にも同じ力が返ってくる。それは回転運動でも同じだから、頭にプロペラをつけて回すと、自分も逆回転してしまう。

その回転の勢いは、プロペラが大きくなるほど速くなる。直径が2mもあるのだから、プロペラの重さを2㎏と仮定しよう。その先端を音速の90%で回すとき、プロペラは毎秒47回転することになる。ドラえもんがこれを頭につけると、その反作用で、自分は1秒間に4.7回の逆回転! むわーっ、これは目が回る!

この問題を解決するために、ここではドローンに学ぼう。タケコプターの大きさは現状のままとし、複数つけるのだ。ドローンはローター4個のものが多いが、タケコプターは129.3㎏のドラえもんを運ばねばならないのだから、その程度では全然足りない。直径20㎝のプロペラで支えられる重量は1.2㎏。するとドラえもんが体につけるべきタケコプターは108個!

こうなると頭だけではとても無理で、腹ばいになって両手両足、背中、尻にもつけてもまだ足りない。二重、三重にするなどして、なんとか全部つけていただきたい。全身タケコプターだらけで、ハリネズミのようになりますなあ。

しかし作品中のドラえもんは、たった1本の小さなタケコプターで、のんびり空を飛んでいる。どうなっているんだろう? 22世紀の科学には、驚くばかりだ。