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一峰先生とウルトラマン

2020年11月に一峰大二先生が亡くなられた。

かつて僕は『いきなり最終回』という「マンガの最終回だけを集めた本」を作っていて、一峰先生の『黒い秘密兵器』を収録させていただくために、一峰先生のご自宅に伺ったことがある。僕がまだ20代だった頃だ。

『黒い秘密兵器』は忍者の末裔・椿林太郎がプロ野球の投手として活躍するマンガ。忍者ゆえにさまざまな魔球(この作品中では「秘球」という)を投げるのがとても楽しい作品だった。

とはいえ、週刊少年マガジンに連載されたのは1960年代の前半で、僕もリアルタイムで読んだことはなく、『いきなり最終回』の企画を立てて、いろいろなマンガの最終回を調べるうちに、このマンガを知った。「かすみの秘球」を投げ続けた椿は、それによって手首に負担がかかり、ガンになってしまう。医師の宣告を受けた椿は、日本シリーズ全5試合に登板(!)してジャイアンツを日本一に導くと、試合直後に姿を消す……というショッキングな最終回であった。

僕が先生のお宅を訪問したのは、もちろんこの『黒い秘密兵器』に関するお話を伺うためだったのだが、実は個人的には「一峰先生といえば『ウルトラマン』」だった。
子どもの頃、秋田書店から出ていた『ウルトラマン』のマンガが好きで、何度も何度も繰り返し読んでいた。テレビの本編より好きなくらいだった。
『黒い秘密兵器』もいいけど、本当は『ウルトラマン』についての話を聞きたい。そう思っていたのだが、マンガの『ウルトラマン』に最終回らしい話はなかったし、何よりも「テレビ番組のコミカライズ」というものは、マンガ家にとっては「単なるお仕事」で、あまり触れないほうがいいのかも……と、その頃の僕は思っていた。

しかし、気さくに話してくださる一峰先生に対して、僕は我慢ができなくなって、おずおずと「違う作品で恐縮ですが、先生は『ウルトラマン』も……」と言ってみると、先生はパッと明るい顔をされて「うん! あれは好きだったなあ!」とおっしゃった。そして「『ウルトラマン』はね、描いていて本当に楽しかった。僕は、ああいう怪獣モノとか大好きなの」と言うと、「そうそう」と部屋にあった大きなラジカセを指差して「いまもこのなかには『ゴジラ』の音楽が入ってますよ。マンガの仕上げのとき、大きな音で流したりするんだ」と笑顔で語られるのだった。

このとき僕のなかで、目からウロコが何枚も剥がれ落ちた。テレビ番組のコミカライズだから「単なるお仕事」などと思うのは、ひどい先入観で、作家にも失礼な思い込みであること。子ども向けの作品に対して、大人が堂々と「好きだ」と言うのは、とても魅力的な姿勢であること――。

そしてそれは、僕にとって大きなできごとだった。
『いきなり最終回』を最後にマンガから離れようと思っていたのだが、これを機にむしろ反対側に舵を切って、いろいろなマンガ関連の書籍やムックを手がけ、やがて『空想科学読本』を作ることになる。
いまでは柳田と2人でYouTubeで「このキャラはいいよね」などと言ってると、コメント欄に「こんなオトナになりたい」などと書かれたりする。そのようなコメント読むたびに「俺もあのとき一峰先生に同じようなことを感じたよ」と必ず思う。

一峰先生、ありがとうございました。先生の姿勢を忘れずに、2021年も明るく楽しくがんばります。