こんにちは、所長です。
最初の『空想科学読本』を作り始めたとき、「これはいい本になるかもしれない」と感じたのは、柳田から『海のトリトン』の話を聞いたときだった。
「水平線の終わりには虹の橋があるのだろう」で始まる『トリトン』主題歌は、海のロマンを強烈にかきたてて、夢が広がるよね。僕がそう言うと、柳田はその場で三平方の定理を使って計算して「トリトンが、白いイルカの背中に立って、高さ1.7mの視線で海の果てを見た場合、水平線までの距離は4.7㎞。それより遠くは、地球の丸みに隠れて見えない」とアッサリ答えた。
えっ、ロマンあふれる水平線までの距離は4.7㎞!? 歩いても1時間ちょっと? 地下鉄だったら、2駅とか3駅とか…?
水平線ははるか遠方…というイメージを勝手に抱いていただけにビックリしたが、僕はこれを聞いて「『空想科学読本』は、多くの人に愛される本になるだろう」と思った。トリトンの世界を笑いに変えられるからではない。「水平線までの距離」という、身近で興味深いのに、理科の教科書にも載っていないようなことが書いてある本は、とても魅力的だと思ったからだ。
最終的にこの話は、最初の『空想科学読本』には載せず、水平線までの距離の話は別の題材にからめて紹介した。だが「身近で興味深いのに、理科の教科書にも載っていないようなこと」は、いまでも大切にしたいと思っていて、できるだけ載せることにしている。『美女と野獣』の野獣は、頭部にツノがあるけど、自然界でツノのある動物は偶蹄目(ウシ目)に限られるので、ベルは怖がらなくてもいい…という話も、その一つ。