ときどき通る道沿いに、小さなケーキ屋さんがある。
おじさんシェフが1人でやっている店で、ケーキは4〜5種類しかなく、ウインドウの大半はいつもガランとしている。
僕はこの店のロールケーキが好きなのだが、なかなか買うことができない。
店の前を通るたびに、外からウインドウの様子を窺うのだが、だいたい置いていないのだ。
開店直後も、お昼頃も、午後早めの時間に通りかかっても、他のケーキはあるものの、その1種類だけがない。
とはいえ、ぜんぜん見かけないわけではなく、タクシーで夜9時くらいにその店の前を通りかかると、たくさん置いてあったりする。
別の日の夜に通りかかっても、やはりたくさんあった。
どうやら夜になると出現するらしい。
しかし近くには商店街もなく、人通りも多くない道沿いなのに、ロールケーキというのはそんな時間から売れるものなのか?
ある日、昼間のうちにそのケーキが置いてあるのを発見したことがある。
「おお、今日こそ買える」と喜んで店に入ったものの、今度は店主の姿がな見えい。
探すとガラス窓の向こう側の厨房に突っ伏して寝ていた。
何度も呼びかけ、窓ガラスを叩いても起きる様子はない。
早めにケーキを作ったので、疲れて寝てしまったのだろうか……。
結局、僕はシェフを起こすことができず、だからその日も買えなかった。
そんなわけで、ロールケーキへの憧れは高まるばかりだ。