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辛辣な森雪

今年いちばん初めに観た映画は、『宇宙戦艦ヤマト50周年記念セレクション上映』の第2弾だった。
最初のテレビシリーズから庵野秀明監督が選んだ9本(3本×3回)を上映するもので、だから正しくは映画じゃないんだけど、それに含まれる第16話「ビーメラ星 地下牢の死刑囚!」をどうしても見たかった。

この回、超ざっくり言うと「森雪とアナライザーが、ビーメラ星に野菜を採りに行き、失敗する」という話。
でも野菜の話はほとんど出てこなくて、中心はアナライザーが雪に告白してフラれる、というエピソードだ。
その際の、雪の態度がめちゃくちゃキツイ。テレビで初めて見たとき、「こんなやな女のどこがいいんだ!?」とアナライザーに聞きたかった。

そして久しぶりに見ても、やはり森雪は辛辣だった。
アナライザーが「班長」と声をかけると「何よ!?」と刺々しく答え、艦載機が不時着したら「いっそ壊れてしまえばよかったのに」と暴言を吐き、ビーメラ星の牢獄でアナライザーが「われわれは殺されるんでしょうね」と言うと「何よその呑気な顔。(死んでも)あなたは元の鉄くずに還るだけだから、たいしたことはないでしょうけど」と、ヒドイことを言う。
それでもアナライザーが健気に「僕はあなたを守って戦って死ぬ」と決意を述べると、雪はアナライザーにすがりつくが、それも一時的。
古代くんが助けにくるや、自分を守ってビーメラ人と戦っていたアナライザーの腕を振り払い、彼の胸に飛び込んでいく……。

劇中では、悲しげな音楽が効果的に流れる。叶わぬ恋と知りながら「それでも僕はあなたが好きです」と言うアナライザーはカワイソウだ。
その印象は、子どもの頃に見たときと変わらなかったのだが、森雪に対しては、当時とはかなり違う気持ちを抱いた。

この第16話は、アナライザーが大勢の乗組員の前で、雪のスカートめくりをするところから始まる。
それを見ていた男ども(雪以外のクルーはすべて男)は手を叩いて大喜び。
困った雪は、沖田艦長に「アナライザーのスカートをめくる癖は直せないでしょうか」と相談するが、沖田は「そういう癖は直さんほうがいいと思うが」などと言い、きちんと対応しない。
つまり、雪には理解者がまったくいないのだ。

そう思いつつ、この話を見ると、森雪のキツイ態度も「無理もない」である。
いや、もっともっとブチ切れても不思議ではない。
この回の雪は、アナライザーを面罵したり、沖田艦長に相談したり、古代くんに抱きついたり、加藤三郎を叱ったりするたびに、それぞれ違った表情を見せる。
同性ゼロ、理解者ゼロという環境で29万6千光年の旅をするのだから、必死だったんだなあ…。大変だったろうなあ…。
『宇宙戦艦ヤマト』と出会って半世紀。
いまになって、森雪にそんなに感情を抱くとは、思いもしなかった。