先月刊行した『名探偵コナン 空想科学読本』は、タイトルどおり1冊まるごと『名探偵コナン』の科学考察本だ。
この本を編集しながら「この本、スバラシイなあ」と思ったことがいくつかあった。
とはいえ、僕の功績ではありません。
その一つは、青山剛昌先生の原作マンガから、コマやページを大胆に引用させてもらったこと。
これにより、たとえば「真剣を持つ犯人に対する平次の動き」や「赤井さんのビックリ狙撃例」など、文章だけでは状況を伝えるのが難しい現象の検証が、とてもわかり易くなった。
最たる例は、怪盗キッドvs.京極真の対決シーンで、そこで起こったことを文章で書くと、たとえばこうなる。
博物館でキッドと対峙した京極は、巨大な柱を蹴りと突きでへし折って倒す。その下には、コナンがキック力増強シューズで破断させていた別の柱が、陳列台に乗るような不安定な体勢で倒れていて、京極の折った柱はその端に落下した。これにより、コナンが折り倒していた柱は、陳列台を支点としてシーソーのように反対側の端が跳ね上がり、素早くそこに飛び乗った京極は、柱の勢いを使って大きく跳躍し、屋上から逃走しようとしたキッドを追う。
がんばってわかりやすく書いたつもりだが、マンガを読んでいない人にとっては、かなり集中して状況を想像する必要があるだろう。
楽しいエンタメ本と思ったら、まるで苦しい修業……になりかねない。
このシーンについては、4ページにわたって原作マンガを掲載させてもらい、さらにマンガ家の福井セイさんに図解のイラストを描いていただいた。
京極真のビックリ行為とそれを実践できる実力が、わかりやすく伝わったと思う。
『空想科学読本』を作り続けて30年近くになるが、ここまでビジュアル(原作マンガの引用+描き下ろし図解)と原稿がぴったり合っている本は初めてだ。
『コナ空』の企画は、小学館の学習まんが編集部の萩原さんに提案いただいたもので、それぞれの原稿に対してどれだけのマンガを掲載するかを最終的に決めたのも、この人だ。
萩原さんは常に「どうすれば『名探偵コナン』と『空想科学読本』の魅力を活かせるか」をキビシク考えている人で、灰原哀の原稿第一稿に科学要素がほとんどなかったときなど「灰原の項目を削りましょう」と言い始め、柳田と僕をあわてさせた(それで懸命に考えた修正案が、現在の原稿)。
こういう優れた編集者といっしょに仕事をすると楽しいし、何よりもいい本になる。
その意味でも「この本、スバラシイなあ」としみじみ感じた『コナ空』なのだ。