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『北極百貨店のコンシェルジュさん』は、優しいだけの映画ではない。


気になって仕方のなかった映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』を見た。
期待以上に独特の雰囲気に彩られた作品だった。

舞台は高級百貨店、主人公は新人コンシェルジュ(まだ本採用になっていない)の秋乃、百貨店のお客はすべて動物。
つまり、髙島屋や伊勢丹、阪急みたいな百貨店で、人間たちが動物たちの希望や悩みに寄り添いながら、できる限りの「おもてなし」に奔走する……というお話だ。

奇妙な設定だが、映画を見ていると、違和感はまったくない。
色彩はめちゃくちゃ魅力的だし、店内の動物たちは二足歩行なのにちゃんと動物らしいし、わちゃわちゃ動いているのは秋乃だけで、でもそれが彼女の懸命さとして印象に残る。
「誠実な仕事とは?」というテーマ設定もあって、世界観をすっぽり受け入れられる。

ただし、終盤のほうで「この百貨店が作られた理由」が語られると、映画全体に対する印象が変わってくる。
キャラの言動や世界観は何も変わらないのだが、見ているこちら側がハッとして意識をリセットすることになるのだ。
高級百貨店が舞台の心温まるエピソードが、単なる「いい話」では済まない意味を持ち始めて……。
ファンタジーなので、その「理由」によってすべての謎が解けるわけでもないし、温かく優しいエピソードの価値が損なわれるわけでもない。
それでも、さっきまでより少し背筋を伸ばして、お客の動物たちを見るようになる。

劇場パンフには、動物行動学者・新宅広二先生の簡潔で刺激的な解説がある。
「動物としての”ヒトらしさ”とはどんなところでしょうか? それは”笑い”です。すべての動物の中で笑いや笑顔をコミュニケーションに使うものはヒトのみです」
「本作の主人公・秋乃は、このヒトの特徴を使って、来店したV.I.A(絶滅種)やスタッフの心を次々に開いていくのです」。
素晴らしい指摘であり、『北極百貨店のコンシェルジュさん』は、まさにそんな映画だった。
さらに別の言い方をするなら、秋乃の笑顔を軸に、見る人に「仕事の姿勢」から「人間と絶滅動物との関係」までを考えさせてしまう、たいへんに意欲的な作品である。