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デスラー総統が古風な話し方をする理由。

いま作っている角川文庫版の『空想科学読本』に、「『宇宙戦艦ヤマト』のデスラー総統が古風な話し方をするのはなぜ?」という原稿を載せている。

もともとは2012年の『空想科学読本12』に載せた1500字ほどの短い原稿で、「実際にデスラーが古風な言い方をしたというより、ヤマトの翻訳装置がそう訳したのでは?」という推論を展開したものだ。
科学要素は皆無の暴論だが、僕はこの原稿が好きで、3年後に『ジュニア空想科学読本➃』にも再録した。
その際、劇中のデスラー総統のセリフを、帰国子女の知人に英訳してもらい、それをネットで自動翻訳する、というのをやってみた。
具体的には、こういう言葉だ。

デスラーのセリフ:
大ガミラスは永遠だ。わがガミラスの栄光は不滅なのだよ。
ヤマトの諸君、気の毒だがまもなく諸君には死んでもらうことになるだろう。

帰国子女の英訳:
The Great Gamilas Empire is eternal. The glory of our Gamilas will last forever.
People of Yamato, it is such a pity that all of you are destined to die soon.

ネットの自動翻訳:
偉大なガミラス帝国は永遠です。私たちのガミラスの栄光は永遠に続きます。
ヤマトの人々、あなたたち全員がすぐ死ぬ運命にあることは、残念です。

自動翻訳の言葉は平板で、古風な匂いはしない。
ってことは、デスラー総統の古めかしい言葉づかいは、やはり翻訳装置の影響に違いない!
そう確信して、これら一連の翻訳を原稿に加え、『ジュニ空➃』に掲載したのだった。
そして、今回の角川文庫版にも、その原稿のまま、大きく変えずに収録しているのだが、ゲラを確認しているときに、ふと気になった。
これ、チャットGPTなら、デスラー総統みたいな訳もできるのでは?

そこで、前掲のセリフを示して、「この英文を、悪人が古風な言葉づかいで話しているように、日本語訳してください」と指示したところ……。

チャットGPT:
偉大なるガミラス帝国は永遠なり。われらガミラスの栄光は永遠に続く。
ヤマトの民よ、あなた方すべてが近いうちに死を遂げる運命にあるとは残念至極なり。

おおっ、なんだかいい線まで行っているではないですか。
だがこれも、「悪人が古風な言葉づかいで話しているように」という意図的な指示に沿っての翻訳である。
ヤマトの翻訳装置にも「悪のラスボスは古風な言葉づかいをする」という恣意的な情報が組み込まれているに違いない。
そう確信を強めて、原稿には大きな修正を加えず、ゲラの確認を終えたのだった。