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『進撃の巨人』と『空想科学読本』

『進撃の巨人』の最終巻が発売されて、あらためて全34巻を読み直してみたのだが、途中で何度も「面白いマンガだなあ」と口に出てしまった。
最初の頃は、巨人がやたら不気味で、劣勢な人間がどう立ち向かうかが話の焦点だが、それは物語の前半まで。 中盤以降、物語は劇的に広がっていく。それまでナゾに満ちていた事象(たとえば、巨人はなぜ人間を食べるのか、なぜ南から来るのか、なぜ知能を持つ巨人がときどきいるのか、など)の秘密が次々と明らかになり、『進撃の巨人』の本当の世界観が見えてくる。それに伴って主人公たちの立場も激変し……と、 幾多のどんでん返しが衝撃的に面白い。

そんなスゴイ展開が待っているとも知らず、かつて空想科学研究所では『進撃の巨人 空想科学読本』(講談社)という本を作ったことがある。
それは2014年、コミックスが13巻までしか出ていないときで、物語はまだナゾに満ちており、柳田がそれらを科学的に考え、謎を探ったり、今後の展開を予想したりした。
ところが物語が進むと、それらの予想はどれも大外れ! たとえば、作中で「巨人は南から来る」といわれていたから、柳田は「同系統の動物は北に住むものほど体が大きいから、 北にはさらに大きな巨人がいるのでは?」などと推測していたが、まったく無関係だった。

そういうところがいっぱいあって、『進撃の巨人 空想科学読本』は完全なる珍本になってしまった。もう空想科学研究所の黒歴史。いまや表紙を見ることさえ恐ろしい。
……と思っていたのだが、『進撃の巨人』を再読したついでに、数年ぶりに『進空』(と勝手に呼称)も読んでみたところ、ややっ、柳田がモーレツに楽しそうに書いている。
たとえば、巨人はうなじが弱点だが、それは人間も同じと指摘して「自分では決して見えない場所に大弱点を抱えているなんて、人間の体はこれでいいのか!? などと根源的なことに気づくのも『進撃の巨人』のおかげだなあ」という具合。思わず笑ってしまい、意外と面白く読んでしまった。

ヨミはほとんど外してしまったので、そこを期待した読者には本当に「ごめんなさい」しかない。ただ、このときの柳田は『進撃の巨人』について考えるのがとても楽しかったんだなあ、というのはしっかり伝わってくる。
僕は「考えることの楽しさ」を伝えるのがとても大切だと思っているから、その点を見れば、黒歴史とまでは言わなくていいかも……と思い直しているところ。

▲『進撃の巨人 空想科学読本』。サイズもカバーの雰囲気も、コミックス本編とほぼ同じ…。