上へ戻る

空想科学読本WEB

kuso-web

ホーム > お知らせ > 『シン・ゴジラ』で展開された「無人在来線爆弾」。その威力を科学的に考える。
  • 空想科学読本WEB
  • Facebookで記事をシェア
  • Twitterで記事をシェア

『シン・ゴジラ』で展開された「無人在来線爆弾」。その威力を科学的に考える。

かつてワタクシは、『ゴジラvs柳田理科雄』という本を書いたことがあります。

すごい書名だけど、すごいのはそこだけ。中身は「ミニラはゴジラに似ていないけど、本当に息子なのか!?」や「エビラはエビの怪獣なのか、ザリガニの怪獣なのか!?」など、人類の発展にまったく寄与(きよ)しないコトをいっぱい研究した本であった。

なぜそんな本を出したかというと、それは2004年に東宝が『ゴジラFINAL WARS』という映画を作ることになったから。タイトルどおり「これが最後のゴジラ映画」というので、「そ、それはあまり悲しい。せめてゴジラ映画だけで一冊書かせてください!」と頼み込んで「♪さようならゴジラさん」という自作の歌を口ずさみながら、公開に合わせて執筆したのだった。いや~、あれは本当に悲しかったなあ。

ところが! 2016年の夏、ゴジラシリーズの新作『シン・ゴシラ』が公開されてしまった。えっ、『FINAL WARS』が最後じゃなかったの!? あれが終わりと信じて、本まで出しちゃった筆者の立場は……!?

などと複雑な気持ちで観に行ったところ、『シン・ゴジラ』はとても面白かった! やたら会議のシーンが多い映画だったけど、原発事故のときの政府の混乱ぶりを目(ま)の当たりにしたわれわれには、会議でのやり取りもリアルに迫る。あの災害を経験したからこそ生まれた意義深いゴジラ映画だ。筆者はたちまち『ゴジラFINAL WARS』のときの悲しい気持ちを忘れ、すっかり『シン・ゴジラ』にのめり込んでしまいました。

え~、拙著『ゴジラvs柳田理科雄』をお持ちの皆さん。そんな事情で、今後増刷する可能性もゼロになりましたので、書棚の奥深くにしまってください。珍品として、いつか価値が出るかもよ~。

◆どれだけ攻撃されたのか?

というわけで、『シン・ゴジラ』について考えたい。

驚いたことに、このゴジラはどんどん姿を変えていった。最初は、住宅街の川を遡(さかのぼ)る不気味な生物だったのだが、政府の対応が後手にまわるうちに、どんどん巨大化。最終第4形態では、身長118・5m、体重9万2千tとなった。これはデカい!

そして、とてつもなく強かった。自衛隊がどれほど攻撃しても、ビクともしない。アメリカ軍の攻撃には傷を負うが、秘めた力が覚醒し、手の打ちようのない事態に陥ってしまう……!

ここでは、自衛隊が行った攻撃を見てみよう。それは、6次にわたって展開された。

・第1攻撃、対戦車ヘリから20㎜機関砲。なんと1万6千発を全弾命中させた!

・第2攻撃、戦闘ヘリから30㎜機関砲!

・第3攻撃、対戦車ヘリからミサイル!

・第4攻撃、戦車と自走砲から砲撃!

・第5攻撃、富士山の裾野(ル:すその)から長距離ロケット弾!

・第6攻撃、戦闘機から爆弾投下!

 これほどの攻撃を試みたのに、どれもまったく効かない!

第6攻撃など、調べてみると2千ポンド(炸薬(さくやく)量400㎏)爆弾で、体重あたりのダメージでは、人間がプロ野球選手2人に同時にバットで殴られるのと同じなのに。それでもゴジラは平気なのだから、もうどうしたらいいんだか。

◆熱線でビルを切る!

自衛隊の攻撃がまったく効かなかったため、ここで日本政府は、アメリカに協力を要請した。

アメリカ軍の攻撃は、地中貫通型爆弾。これはゴジラの皮膚を破って爆発し、負傷させる。

ところが、これがゴジラを覚醒させてしまう。怒ったゴジラは、口ら熱線を放ち、爆撃機を撃墜。さらに背中からも20本あまりの熱線を放ち、これで高層ビルをスパスパ切り始める。いよいよ手がつけられなくなった!

科学的に興味深いのは、光線でビルを切っていたことだ。コンクリートの主成分の二酸化カルシウムは、825℃以上になると、二酸化炭素と酸化カルシウムに分解する。スパスパ切っていたということは、ゴジラの熱線はそれを上回る高温だったのだろう。

具体的な温度はどれほどか? 背中から発射された光線の太さは1mほどで、一辺50mほどのビルが一瞬で切断された。ビルを切断した時間が0・1秒だったとすると(そのくらいに見えた)、熱線の温度は825℃どころではない。熱線が当たった物体は16万℃に加熱されたはずなのだ!

16万℃! これに耐えられる物質はない。宇宙のどこにも存在しない。もう、どうしようもありませんな。

◆がんばれ新幹線&在来線!

これほどすごいゴジラが結局どうなったかは、映画で確かめてもらいたいのだが、筆者が胸躍らせた攻撃シーンについて、ちょっと触れさせていただきたい。

それは、新幹線爆弾! なんとゴジラへの攻撃にボクらの新幹線が投入され、そのとき初めて、過去のゴジラ映画でも繰り返し使われてきた勇壮な「自衛隊マーチ」が鳴り響いたのだ!

東京駅で活動を停止しているゴジラに、N700系新幹線2編成が突っ込んでいく。画面下のテロップには「N700系新幹線(無人運転)」とあったから、無人操作の新幹線に爆弾を積んで、ゴジラにぶつけたのだろう。筆者はこのシーンにいちばん胸が躍りました。

その後あれこれ攻撃した後、再び電車攻撃! 今度は、山手線や東海道線などの列車が、ガーッと5編成ほどゴジラに向かっていく! テロップには「無人在来線爆弾」。やー、すごいすごい、がんばれ電車!

まさかゴジラ映画で在来線が活躍するとは思わなかったが、筆者はここで少し気になった。在来線と新幹線だったら、やっぱり新幹線のほうが優れた車両なのではないか。自衛隊の攻撃でも、どんどん威力がエスカレートしていったのだから、先に在来線爆弾で攻撃して、最後に新幹線爆弾を見舞うべきではないのか……と。

ところが、調べてみると意外なことがわかった。

新幹線の線路は、1両あたり64tの重さに耐えられるように設計されている。N700系1両の重さは44tだから、1両に20tを積むことができるわけだ。これに対して、在来線の線路は60tにしか耐えられないが、たとえば通勤電車に使われるE231系は車重が30t。よって爆弾30tを積める計算になる。

つまり、在来線は新幹線の1・5倍もの重量を運べるのだ。考えてみれば、乗っているお客さんの数は在来線のほうが多いから、これは当然かもしれない。

ということは、爆弾をより多く積めるのは在来線! 無人列車爆弾として優れているのも在来線! 『シン・ゴジラ』のおかげで意外な事実がわかりましたなあ。

では、その破壊力はどれほどか。山手線は11両編成だから、1両に30tの爆弾を積むとしたら、1編成あたり330t。東京駅の地上ホームには、山手線、京浜東北線、中央線、東海道線、横須賀線などが乗り入れており、合計5編成なら1650tである。

体重あたりのダメージでは、人間が爆薬1・3㎏(ダイナマイト6本分)の爆風を浴びたのと同じだから、ゴジラに対してもかなりの効果があったと思われる。

実際に1650tとは、戦闘機から落とした2千ポンド爆弾4100発分だ。劇中ではそんなに落としていなかったから、電車攻撃は自衛隊の攻撃を上回ったのだ。ますますスゴイぞ、電車!

自衛隊もがんばったけど、それ以上に電車の活躍が光った『シン・ゴジラ』。掛け値なしの傑作である。【了】