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『エースをねらえ!』の緑川蘭子は、壁打ちでボールを割っていた! そんなことできるの!?

『エースをねらえ!』の緑川蘭子は、壁打ちでボールを割っていた! そんなことできるの!?

『エースをねらえ!』は、まことにインパクトの強い作品であった。

主人公・岡ひろみを鍛える宗方仁(ル:むなかたじん)コーチ(まだ20代)が、プライベートを和服(しかも蜘蛛の巣の柄!)で過ごしていたり、金髪で縦ロールのお蝶夫人(まだ高校2年生)が「負けるのを怖がるのはおよしなさい!」などと伝統的なお嬢さま言葉で名言を口にしたり……と、一度見たら忘れられない要素がてんこ盛りなのだ。

だが、この作品は1970年代を代表するスポ根少女マンガ&アニメの金字塔である。枝葉末節(ル:しようまっせつ)にとらわれず、ここではテニスを描いた場面に注目すべきであろう。

筆者が驚いたのは、ライバルキャラ「加賀のお蘭」の特訓シーンだ。それは、アニメ版の第6話に登場する。

地区大会決勝戦を控えたひろみが、練習しようと夜の公園へ出かけると、対戦相手校のエース・緑川蘭子(ル:みどりかわらんこ)が壁打ちをしていた。蘭子が壁に向かってサーブを打つたびに、なんとボールが割れて破片が飛び散る! 壁際には、そんなボールの残骸が無数に散らばっている!

 ひろみはガタガタ震えていたが、こんな光景を目の当たりにしたら、誰だってビックリするだろう。ボールを割るほどのサーブとは、いったいどういうモノなのか?

 え? それこそ枝葉末節!? いやいや、これは科学的には目が離せないすごいシーンですぞ。

◆ゴムのボールが砕け散る?

サーブでボールが割れるだけでも驚異だが、気になるのは、その割れ方である。

ひろみが目撃した場面では、割れたボールがいくつもの破片となって飛び散っていた。それらは、まるで割れたお茶碗のようであった。ゴムでできたボールが、こんな割れ方をするものだろうか?

ゴムのように伸縮する物体に力をかけると、もっとも弱い1ヵ所が裂け始める。すると、その場所はますます弱くなって破断が進み、ついには2つに分断される。つまり、破壊は常に1ヵ所でしか起こらず、破片の数も最大2個なのである。

これはティッシュを裂いてみれば、よくわかる。両端を持って引っ張る限り、3つ以上に分かれることはない。破壊によっていくつもの破片が生じるのは、ガラスや氷のように硬く脆(ル:もろ)い物体だけだ。

 すると蘭子は、ガラスのボールを打っていたのか? いや、それはあまりに危険だし、決勝戦を目前にしたテニス部のエースが、そんな酔狂(ル:すいきょう)な行為に手を染めるはずはない。

ならば、ボールを凍らせて打ったのか? 凍った物体に強い衝撃を加えると砕け散るが、ボールを凍らせるためには液体窒素などを用意せねばならない。この大事なときに、そんな理科実験ショーみたいなことをするかっつーの。

 つまり、普通の壁打ちでテニスボールが「砕け散る」という現象が起こるとは、とても考えづらいのだ。

◆ボールがマンホール大にびよーん!

したがって「ガラスのように砕け散る」という側面は置いといて、ここでは「ボールを壁にぶつけて破壊する」という事実だけを考えることにしよう。これだって、充分に大変である。

ゴムは弾力性豊かな物質だが、限界を超えて変形すると、ちぎれてしまう。蘭子が打ったボールも、同じ原理で破壊されたと考えるべきであろう。

壁に衝突した瞬間、ボールはぺしゃんこになり、壁に沿って押し広げられたはずだ。このとき、ボールの表面には引き伸ばす力が働く。その力が限界を超えた瞬間、どこか最も弱い部分が裂けたのではないか。

では、その限界とは? 調べてみると、ゴムの強度には幅があり、2倍から10倍に伸びると破断するようだ。しかも、もともと球形だったボールが平面になるため、見た目の直径はさらにルート2=1・4倍となり、2・8倍から14倍に拡大したときに破断することになる。

ということは、壁にぶつかった瞬間、直径6・7㎝のテニスボールが、小さくても直径19㎝、大きければ95㎝にまで、びよーんと広がった……!?

にわかには想像しがたい怪奇現象である。直径19㎝とはドンブリの大きさ、直径95㎝とはダンプカーのタイヤほどの大きさなのだ。テニスボールとは、そこまで大きくなるものなのか!? だが、そうなって初めて、ボールは薄く引き伸ばされ、弱い部分から破断して、2つに割れる可能性が生まれるのだ。

逆にいえば、こんなことでも起こらない限り、テニスボールを壁にぶつけて割ることはできないということだ。これを実践していた緑川蘭子はすごい。さすが、宗方コーチの異母兄妹!

◆サーブのスピードは超音速!

こうした超常現象を起こすには、もちろん超常的なパワーが必要だ。

ここでは、前述した2~10倍の中間を取って「6倍」、すなわちボールの見た目の直径が8・4倍に伸びたときに破断すると仮定しよう。それすなわち直径57㎝である。

硬式テニスボールには、1・8気圧の窒素が入ったものと、通常圧の空気が入ったものとがある。前者はゴムの厚さが3・4㎜、後者は4・2㎜。薄いほうだとしても、壁に衝突した衝撃でこれほど変形させるための激突スピードは、時速3400㎞=マッハ2・7だ!

ひろみと蘭子の試合を観戦していた尾崎先輩は「お蘭のサービスは男なみだ」と評していたが、プロの男子選手でもサーブの歴代最高速度は、サミュエル・グロス選手の時速263㎞(1912年)。男なんぞ、相手にならん!

さて、こんなサーブを放つ蘭子さんは、どれほどの筋力の持ち主なのだろうか?

物体に力をかけて、エネルギーを与える現象では「エネルギー=力×距離」の関係がある。この場合の「距離」とは、ボールがラケットに接触してから離れるまでにラケットが動く距離のことだ。アニメでは測定できないので推測するしかないが、その距離は長くても10㎝くらいのものではないだろうか。

すると、ラケットがボールを叩く力は、最低でも25tになる。この女子高生、一瞬とはいえ、大型バス2台をラケットに載せて支えるような力を出しているのだ。本当にすごいな、緑川蘭子。

もし皆さんがこんなすごい選手と対戦することになったら、とっとと棄権(きけん)したほうがよろしい。マッハ2・7のサーブを受けたら、人生がそこで終わる可能性があります。【了】