空想科学研究所

震災の被害にあわれた方々にお見舞いを申し上げます

空想科学研究所主任研究員 柳田理科雄

 3月11日は『空想科学読本10』と『金の空想科学読本』の正式な発売日だった(都会の書店には数日前から並んでいた)。『10』は、本紙「空想科学 図書館通信」の原稿に修正を加え、書き下ろしの1本を添えた本、『金』は『空想科学読本』シリーズ15年を記念して、読者の皆さんが選んだ25本を載せたBEST版である。そろそろ何人かの人は手に取ってくれているだろうか、と幸せな想像をしていた午後、地震は起こった。

 揺れを感じたとき、僕は東京にあるマンションの2階の自宅に、食事に帰っていた。一般に、低層の階では揺れは小さいものだが、人生で経験したことのないほど揺れた。鎮まってからТVをつけると、震源は宮城県の沖合いだという。背筋が凍った。震源が東北沖で、東京がこの揺れなら、マグニチュード8くらいあるのではないか!?
 別の建物の7階にある仕事場に行ってみると、本棚が1つ倒れ、倒れなかった本棚からも本が落ちて床を埋め尽くしていた。片付ける気にもならず、呆然とТVを見る。津波は早くも街や田畑に侵入し、車や家屋を押し流している。気づいて、愕然とした。『金の空想科学読本』には「ウルトラマンは津波を防いで千葉を滅ぼす」などの原稿が載っている。このタイミングで刊行するには、あまりにも不謹慎な内容といわざるを得ない。
 だが、本はすでに書店に並んでおり、どうにもならない。14日に送信する予定で進めていた本紙の発行を中止し、13日の予定だった新聞広告の掲載を延期してもらうのが、できることのすべてだった(だが広告は、新聞社の判断で翌日に載ってしまった)。
 亡くなられた方々に、心からお悔やみを申し上げます。また、被災地の方々にはお見舞いを申し上げます。

 地震も津波も原子力も、しばしば空想科学の物語のテーマになる。だから僕は、それらに伴うエネルギーや被害についてできるだけ勉強し、何度も書いてきた。
 たとえば、地震の規模を表すマグニチュードが1大きくなると、エネルギーは32倍になる。断層の規模も、4倍になる。今回の地震では、初めマグニチュード7・8と報道され、徐々に修正されて、これを書いている時点では9・0と発表されている。マグニチュードが1・2大きくなったということは、エネルギーは63倍、断層の規模は5・2倍である。時間を追うごとに、大きな地震だったことが明らかになったわけだ。
 また、津波は前後の幅が100qを超えることもある海面の盛り上がりである。だから水位の上昇は長い時間続き、陸地に上がってからは、地形にもよるが、秒速10mレベルの速さで進む。走って逃げるのは不可能で、人間が巻き込まれた場合、押し流す力は1tを超える。「津波が発生したら高いところへ逃げて、そこから動くな」といわれるのは、そのためだ。
 放射線の実体は、放射線の実態は、大きなエネルギーを持った粒子や電磁波だ。人体への危険度は「線量当量」と呼ばれ「シーベルト」という単位で表される。状況に応じて、千分の1の「ミリシーベルト」や、そのまた千分の1の「マイクロシーベルト」が使われる。線量当量が150ミリシーベルトを超えると、急性の症状が現れる場合がある。測定されるのは「1時間あたりの線量当量」で、線量当量は時間とともに溜まっていくから、たとえばある地点で1時間に1ミリシーベルトが測定されたとき、そこに150時間とどまっていると危険だということになる。現在、ヨウ素やセシウムなどの放射性のガスの広がりが問題となっているが、実際の影響は各地で線量当量を測定し、情報を交換し合えば明らかになるはずだ。
 TVの報道を見ながら、僕の脳裏にはこれらが浮かんでは消えた。さまざまな分野で科学は進歩してきたが、天災や大きな事故の前では、いまだにほとんど無力である。

 では、天災や事故に対して、人間には何ができるのか。
 できることは、たくさんある。科学もその一つだと思う。それは、専門家がデータを蓄積し、理論や技術を進歩させればよいという意味ではない。われわれ一人ひとりが、地震や津波や原子力の実態を、あるがままに知ることが大切だ。それによって、あなたや家族や友人・知人が天災や事故に遭遇したときに避けられる危険もあるかもしれない。状況を正しく判断する役に立てたら、それだけでも科学が貢献したといえるだろう。
 この地震が終息しても、被災地の方々には震災後の生活が続く。それは、被害にあわなかった人々にも、やるべきことがあることを意味する。「やるべきこと」とは、直接の支援だけをいうのではない。節電する、災害に真剣に取り組む代表者を選ぶ、あるいは自分の仕事に邁進して日本を活気づける。これらも、力強い「支援」となるだろう。
 人々の幸せを願い、知識を求め、自分にできることをやる。それこそが科学だと僕は思う。

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