研究資料 空想科学研究所
推薦図書
主任研究室の本棚に並ぶ数々の科学の書。
その中から読者の皆さんにぜひ読んでいただきたい本を、紹介していきます。
『宇宙はどこまでわかっているか』
(池内了著・NHKライブラリー/日本放送出版協会)
これまでおススメ本として紹介してきた8冊の本は、小学生や中学生の読者を念頭に入れて紹介してきたつもりだ。旺盛な好奇心を刺激するような本ばかりだから、むろん大人の読書に十分堪えられる。むしろ、まずは大人に率先して読んでいただきたい本でもある。
これから紹介する残りの2冊もまず大人には読んでいただきたいものだが、高校生程度の知識を必要とするかもしれない。
『宇宙はどこまでわかっているか』からいこう。
著者の池内氏は京都大学を卒業後、国立天文台教授などを歴任した宇宙物理学者だが、一般向けの科学啓蒙書を数多く著している。どれも明快かつ平易に書かれているから大助かりだ。
宇宙論の最前線は、日々刻々と言っていいくらい新しい発見があり、最新の理論といってもすぐに覆されることもありうる。それだけに、一般向けとはいえ、ハンディな体裁の本であると値段も安く、いわば「使い捨て感覚」で読むことができる。新しいものが出れば、そっちに飛びつけばいい。
この本は、冒頭の4分の1ぐらいまでは古代からアインシュタイン、ハッブルらに至る宇宙論の変遷をざっと回顧している。この部分は、一般向けの本としてはどうしても触れざるを得ないということだろう。
しかし、そこを過ぎると、僕を含めた一般読者は俄然、宇宙論の最前線に投げ込まれる。
ここで言う宇宙論の最前線とは一言で書くなら、1980年代以降研究されている「宇宙の構造とその誕生」という問題である。
ここ数十年の研究で、宇宙は「泡構造」をもつのではないかと言われている。泡構造とは、銀河の配置が昔言われていたような「アトランダム」な散りようではなく、ある部分密集していて、その密集具合を図示すれば「泡のようになっている」ということだ。
なぜ、銀河が密集している部分と密集していない(疎の)部分があるかは、どうやら「ダークマター」と呼ばれる謎の物質に関係しているらしい。いや「物質」と呼んでいいのかさえ分からない。通常の物質は陽子や電子の仲間の「素粒子」でできているが、その素粒子ですらないというのだから。ダークマターの研究は端緒についたばかりである。
この本からは、文字通り、マクロな宇宙のものすごいスケールの大きさが感じ取れる。僕なんかは、それ以上に、一見難解そうな宇宙論の用語、たとえば「銀河集団」とか「銀河群」、「宇宙の地平線」、「グレートウォール」なんて言葉を見聞きするだけでシビれてしまう。言葉を見聞きするだけでも、僕の宇宙に対するイメージをぐわーっと広げてくれる。
澄み渡った秋の星空をしばし見上げた後、アメリカが打ち上げたハッブル宇宙望遠鏡の天体写真集なんぞを脇に広げながら、この『宇宙はどこまでわかっているか』を読めば、鳥肌が立つほどの感興を催すこと請け合いである。
(『なぜ僕は理科を好きになったのだろう?』巻末付録:〈子どもを理科好きにするためのおススメ本●僕はこんな本を読んできた〉より)