研究資料 空想科学研究所
推薦図書
主任研究室の本棚に並ぶ数々の科学の書。
その中から読者の皆さんにぜひ読んでいただきたい本を、紹介していきます。
『タネはどこからきたか?』
(鷲谷いづみ著、埴沙萌撮影/山と渓谷社)
ドングリは、カシやクヌギ、ナラなど常緑広葉樹の種子の総称である。
そのドングリには栄養がいっぱい詰まっている。いったん地面に落ちて、生育条件さえ整っていれば、やがてドングリから根や幹が出て、長い年月をかけて大木に成長していく。当然のことながら、そのためには栄養がなくてはならない。
ドングリの親木は、無数のドングリを地表に落とす。その中で大木に育つのはほんの数個か1個、場合によってはゼロかもしれない。すべてのドングリが栄養たっぷりであることから考えると、「子」を育てる効率はおそろしく低いということになる。
それでも、親木は栄養の詰まったドングリを毎年毎年数限りなくつくっては地表に落とす。なぜ、そんなムダをしているのだろう?
実のところ、それは決してムダなんてものじゃあなく、カシやクヌギなどが未来永劫まで子孫をつくっていくための「考え抜かれた」戦略なのだ。
絵本や映像でよく見られるように、リスや野ネズミといった小動物はドングリが大好物である。一本の目が成長するには充分すぎるほど蓄えられた栄養を、そこから摂取できる。小動物にとっても、ドングリを食べることは生き残るために必要な行為なのだ。
むろん、すべてのドングリがそうやって食べ尽くされれば、親木にとって望ましくない。生き残れない。ところが、ドングリを好む小動物たちは、これまた生き残るために、ドングリを一気に食べてしまわないで、かなりの数を貯蔵しておくのである。「後で食べよう」とか「冬に備えて蓄えておこう」、あるいは「生まれてくる子どもたちのためにとっておく」というふうな知恵が働くのだろう。しかし、どこの世界にもうっかり者はいるもんで、貯蔵したことを忘れてしまう。地面に掘った穴や、草の陰などに忘れ去られたドングリから、やがて芽が吹く。親木にしてみれば「しめしめ」である。
この一連の流れは、生物の進化に関わっている。
「キリンの首はなぜ長い?」――その昔言われていたような「高い枝の葉を食べようと、しだいに首が長くなった」という説は、こんにちでは正しいとされていない。いまの進化論をもとにかいつまんで言うと、「突然変異によって、偶然に首の長いキリンが出現し、その首の長いキリンのほうが短いキリンよりも生き残りに適していたから、長いほうのキリンだらけになった。だからキリンの首は長い」というのが正解だ。
ドングリを落とす親木は、かつて栄養の少ないドングリも落としていたのだろう。しかし、それでは生き残れなかった。偶然に栄養たっぷりのドングリを落とす親木だけが生き残って、子孫をつくることができた。つまり、環境に適合する生物だけが生き残っているということである。
ここに取り上げた『タネはどこからきたか?』は、豊富な写真によって、植物たちの生き残りをかけた営みをていねいに教えてくれる。そこから僕たちは生命の力を感じ取ることができる。そして、読者は生物の進化というものをも各ページから実感できるようになっているのだ。
根気強い撮影に感謝したい気持ちでいっぱいである。
(『なぜ僕は理科を好きになったのだろう?』巻末付録:〈子どもを理科好きにするためのおススメ本●僕はこんな本を読んできた〉より)